道路特定財源の問題がヒートアップし続けて、久しぶりに地方と税の問題に注目が集まった。小泉内閣時代、三位一体の改革による税源移譲問題で国と議論した「闘う知事会」は、明解な「改革」志向だった。それに比べて、今回の議論は国土交通省と全国知事会が共に暫定税率堅持を主張するなど、やや「後ろ向き」に見える。今号の各誌で目立つ、現職・前職の知事らの声を拾ってみる。
『文芸春秋』では、前・鳥取県知事で慶応大教授の片山善博が、首長たちに<みな、自分の頭で考えることを忘れているのではないか>と苦言を呈した。財源がなくなるなら、道路整備を減らせばいいだけだ。片山は、他の行政サービスを削ってでも道路を造るような主張があるとみて、危機感を募らせる。
自治体の予算案が決まる1月末から2月初めの時点で、既に、暫定税率が国会の争点になることは明らかだった。片山は『世界』で、にもかかわらず各自治体は、いわば惰性で暫定税率の延長を前提に歳入を見込んで予算を組んでいたと指摘。国会の動向をにらんで在庫を管理したガソリンスタンドと比べて、自治体が明らかに劣っていると批判した。
自治体側を擁護する声もある。『Voice』では、前高知県知事の橋本大二郎が、自治体の動きに二つの理由があるとする。国土交通省と自治体の力関係を考えれば、国交省の嫌がる道路特定財源の一般財源化を知事が主張するメリットなどない。また、三位一体の改革での経験もある。当時と同じく、一般財源化されても地方の取り分が少なくなるのは明らか。ならば現状を維持して財源を減らさない方が、ベターだ。
宮崎県知事の東国原英夫は、『Voice』で、都市部の県民の「ガソリン税を下げるべきだ」という声と、県経済に必要な道路整備の両立を論じる。ガソリン税を1、2年は低いまま据え置き、道路特定財源を5年は残して、無駄を省きつつインフラを整備するという折衷案を出す。
東国原といえば、『現代』で立教大助教の逢坂巌が、彼のマスコミ露出について興味深い分析をした。東国原は、タレント出身の本領を発揮することで宮崎県のブランド力を上げ、視聴率を稼ぎ、自身の支持率も上げる好循環を実現している。
逢坂は、これを<ポスト改革派知事の有り様にも一石を投じている>とする。つまり、片山や宮城県の浅野史郎・前知事ら「改革派知事」は、県政の透明化や無駄遣い一掃に活躍し、似た動きが他県にも波及した。それに歴史的意義はある。だが、彼らは体制改革後の産業政策や地域活性化までは、方法論を見つけられなかった。その意味で、東国原は<経営マインドを持った首長の一つの解答なのかもしれない>のだ。
『Voice』では、地域経営研究会が全都道府県の知事について、<地域経営者>としての尺度で測ったランキングを載せている。ここでも東国原は、麻生渡・福岡県知事に次ぎ、2位となっていた。(一部除き敬称略、特記のない雑誌は6月号)【鈴木英生】
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毎日新聞 2008年5月15日 東京夕刊