厚生労働省は6月6日、「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」(座長=寺野彰・独協医科大学長)に対し、薬害の再発防止や市販後の医薬品の安全対策のため、副作用報告を収集・評価分析するための「データセンター」設置や、企業や医療機関へのフォロー体制強化などの論点案を提示した。これらの対策を実施するための組織や体制の在り方については、委員から「もみ消すのがいいという環境に置かれたら、どんな人でもそうなる。どんな気持ちで働くかのインセンティブの持たせ方を議論すべき」との指摘が出るなど、組織の機能や人材確保についてさまざまな意見が錯綜(さくそう)したが、厚労省は次回30日の会合に、概算要求に向けての中間取りまとめの案を提示する予定だ。(熊田梨恵)
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被害者全員を一律救済へ(07年重大ニュース) 厚労省は前回の会合で、薬害の再発防止に関して早期実施が必要な対策についての論点案として、▽情報の収集・評価▽安全対策措置の実施▽情報伝達▽市販後の医薬品の継続的評価―を提示しており、今回は項目ごとに詳細に提案した。厚労省によれば、副作用の報告対象には医薬品のほか、医療機器、血液製剤、治験薬も含まれる。
「情報の収集・評価」では、副作用の発生頻度の変化などを把握するには症例報告を中心とする現行の方法では限界があるとして、レセプトや電子カルテなどを利用した新しい分析手法の導入を提案した。薬効群ごとに、医学、薬学、生物統計学などの専門職から成るチーム制での分析評価を導入し、膨大な情報を効率的に処理・活用するために官民で共同利用できる「データセンター」を設立する。また、現在の副作用に関する報告書の様式を簡素化する。
「安全対策措置の実施」では、市販後の医薬品について緊急の連絡事項がある場合に製薬企業が医療機関などに配布する「緊急安全性情報」が、医療現場でどの程度活用されたかをフォローすることや、製薬企業で安全対策が確実に実行されているかなどを見ていく仕組みも必要とした。
「情報伝達」では、製薬企業が一部の医薬品のみで発行している「患者向医薬品ガイド」を新薬すべてで発行することを提案した。
「市販後の医薬品の継続的評価」では、製薬企業が承認審査の段階で、市販後の安全対策や管理方法などを定めた計画を作成して実施し、その評価と必要な見直しを行う「リスク最小化計画・管理制度」を導入する。また、市販後は10年ごとに一律に再評価を実施するなど、一定期間ごとにリスクベネフィットを評価する仕組みを導入することも示した。
■医薬品行政組織の位置付けは?
こうした対策を実施するため、安全対策を国が、副作用報告にかかわる業務を医薬品医療機器総合機構(PMDA)が実施している現在の体制の見直しの必要性にも言及。承認審査や副作用などによる被害救済も含めて、医薬品行政を所管する組織の位置付けを見直すよう提案した。現在、医薬品や医療機器の安全対策に携わる職員は総務部門などを含め厚労省で27人、PMDAで39人。このうち副作用情報の分析・評価や安全対策措置の実施を担うのは厚労省で15人、PMDAで20人にとどまっており、専門的な人材確保のため、医療現場との交流や企業出身者の活用も検討するとした。
■「急ぐのは分かるが、理念を」
意見交換の中で、大平勝美(はばたき福祉事業団理事長)は、「7月をめどに中間報告をまとめるので、(厚労省が)急いでいるのは理解できる。しかし、報告をまとめるための理念を考えてほしい。薬から人を見るのでなく、人から薬を見てほしい」と述べた上で、患者や研究者、製薬会社、医療者なども医薬品行政にかかわり、厚労省からは医薬食品局だけでなく、医政局や健康局も入って検討してほしいと主張した。
堀内龍也委員(日本病院薬剤師会会長)は、「日本は35人で安全対策をやっている状況で、極めて不十分。これを改善しなければ対策はできない。米食品医薬品局(FDA)ではどれぐらいの人数が安全管理に携わっているのか」と厚労省側に尋ねた。
■人材の流動化へ規制緩和を
堀明子委員(帝京大医学部付属病院腫瘍内科講師)は、PMDAにいた現場の立場から言いたいと述べた上で、「PMDAには人材が少ないとずっと言われており、審査や安全対策に民間から人を入れていくことが必要。(PMDAの技術系職員は)薬学出身が7割弱。いろいろな人を入れていかないと、画期的なアイデアが出ることは難しい」と指摘。また、PMDA退職後は2年間、メーカーに就職できないことが人材の流動化を阻害していることなどからも、「PMDAを経験した人が外部に出て交流していくことを考えてほしい」と求めた。また、FDA内の医薬品評価研究センターが持っている患者データベースについて、仕組みなどが分かれば具体的な議論ができると提案した。副作用発生時の対応などについても、フォローできる仕組みを整備すべきと訴えた。
■「形」より「機能」を
元PMDA審査官の小野俊介委員(東大大学院薬学系研究科准教授)は、厚労省の論点案は行政組織の「機能」に言及していないと指摘。「どういう気持ちで働くかというインセンティブが大事。(発生した問題を)もみ消すのがいいという環境に置かれたら、どんな人でもそうなってしまう。そうならないような具体的な気持ちの持たせ方を議論してほしいが、今の案には全く入っていない」と述べ、組織の「形」だけでなく、「機能」も併せて考えるよう求めた。さらに、「人は間違える。患者を守り過ぎて間違えるか、守らなさ過ぎて間違えるかだ。正しい一つの答えがあるのではなく、どちらの間違いを取った方がいいかということ。FDAは『この薬は危ない』とはっきり言う。仕組みや入れ物だけでなく、こうしたメッセージの発し方もセットで議論しないと深まらない」と述べた。
水口真寿美委員(弁護士)は、「(安全対策などについて)ここをやりたいけどここができない、人数が足りないと率直に言ってほしい」と厚労省に求めた。
■FDAのスタッフは1万人
厚労省側は、安全対策にかかわる人数についての質問に対し、FDAには約1万人が働いており、その中の医薬品評価研究センター(約2500人)で約135人が安全管理業務を担っており、近く210人にまでに増員される予定であることを明らかにした。また、新薬の審査には約800人が携わっているとした。
今後の医薬品行政の組織については、自民党が4月に出した「薬事政策のあり方についての検討方向」と題した文書に言及。「全くの参考だが、自民党の資料によれば、安全対策部門には300人ぐらい要る」と付け加えた。
■専門家はメーカーに多いのが実情
「いしずえ」(サリドマイド福祉センター)事務局長の間宮清委員は、厚労省の出した論点案について、「安全対策で一体何をやるのか、具体的なものがない。データ解析も大事だが、医薬品の使われ方など現場が大事だ。(「リスク最小化計画・管理制度」の提案などについて)企業にだけ求めるのではなく、安全対策の中で承認条件に合ったことをやっているかを監視し、指導することが大事」と、具体的な対策を示すべきと要望した。また、人材確保に関しては、「被害者として、企業と国がくっつくとろくなことが起きないから避けてほしい」とした。
これに対し堀内委員は、「(製薬)会社と厚労省が密接なのではない。会社にいた人が専門性を生かすために来るということ。人が足りない中で専門家をどうやって取るか。感情的には分かるが、前向きに考えたい」と述べた。
寺野座長は「(PMDAに)入る時に、企業から、(大学など)専門から入る。辞めた後、今は(2年間メーカーに就職できないなどの)制限がある。そのへんのインセンティブや人材を確保するための体制をどう考えていくかだ」と、問題点を整理した。
■専門家の在り方は?
椿広計委員(統計数理研究所リスク解析戦略研究センター長)は、人材確保について、「消費者の立場に立っていかないと、(判断などに)バイアスが掛かるが、(現状は)専門家が足りない。専門家が何を判断しなければならないか、どのような意思決定をしなければならないかなど、シナリオごとに提示することが必要。現時点では必要な人材をメーカーから確保することも認めるが、どういう人を育てるかを明確にすべき」と述べた。また、「今回設計された方法論(厚労省の論点案)で、過去の事象(薬害)がクリアできるかを目に見える形で検証してほしい」と求めた。
会合終了直前に、水口委員は「今の体制では安全対策はできない。どういう人材確保が必要かの議論が(この会議で)煮詰まっていない。承認審査時の問題意識を安全対策に引き継ぐシステムなど、第三者組織をつくることを検討してほしい」と要望し、中間取りまとめの案を提示する前にもう一度議論することを求めた。
寺野座長は「非常にいろいろな問題があるが、再発防止が最も大事。概算要求に向けて中間取りまとめが必要」との見方を示し、次回30日の会合で、中間取りまとめの案を提示する考えを示した。また、意見が上がった問題については、肝炎についての検討も含め、今年度中に議論し、提言としてまとめるとした。
更新:2008/06/06 22:13 キャリアブレイン
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08/05/23配信
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