自分になりすました別の女児の不法滞在のため、日本に帰国できない女児を取材しました。
フィリピン・マニラに、自分になりすました別の女の子が日本で不法滞在をしているため、6年間、帰国できずにいた女の子がいました。
日本人なのに日本に帰ってこられなかった女の子の名前は山中由華ちゃん。
国境を越えて入れ替わった2人の「由華」の人生。
その裏には、父親による驚くべき不法滞在の手口がありました。
保育園からスキップをして出てくる女の子・山中由華ちゃん。
しかし、これは偽名で本当の名前はルナ(仮名)、フィリピン人だった。
彼女はこの時、東京入国管理局に追われていた。
ルナの手を引く山中 誠被告は、再婚したフィリピン人女性の子ども・ルナを自分の実の娘の由華ちゃんになりすませ、来日させた。
親子3人は、届け出をしている住所とは別の場所で隠れるようにして暮らしていた。
2月、入管の職員が摘発のタイミングをうかがっていた。
入管職員らは、突然駐輪場へ移動し、フィリピン人の母親に「由華ちゃんのパスポートのことでお話します。お父さんにも一緒に話を聞きます。待たなくていいです。一緒に入ります」と話しかけた。
室内での捜索が始まった。
夫の山中被告はこの日、不在だった。
入管「山中由華さん、子どもの件で来たんだけども。意味はわかります?」
母親「だから日本語わからない」
入管「由華ちゃんの本当の名前はなんですか?」
母親「えっ、もう1回言って」
入管「子どもの名前」
母親「ルナ(仮名)ちゃん」
入管「由華ちゃんって誰の名前?」、「本当の由華はどこにいます?」
母親「フィリピン」
入管「由華のパスポートで(日本に)来たんでしょ」
母親「はい」
入管「それはイリーガルエントリー(不法入国)になります」
母親「それ、わたしわかってる」
母親はルナの不法入国を認めた。
入管は、本物の由華ちゃんのパスポートを発見、顔写真のところには、幼いころの写真が張ってあった。
ルナの顔写真入りパスポートも見つかり、名前の欄には「山中由華」と記入されていた。
代筆者として父・山中 誠の文字。
写真のみが、由華ちゃんからルナへすり替えられていた。
母親「だんなさんといつも話してるよ。毎日『どうする? どうする? だめだよ』。それ、いつも話してるから」
入管「本当の由華ちゃんが日本に戻って来れない。何で?」
母親「わかってます」
入管「パスポートがルナちゃんの顔になっているから。それが一番問題なの。わかる?」
母親「わかってるんだよ、それ、本当は問題になるんだよ、それ」
母親は入管に収容された。
4月、取材班はフィリピン・マニラへ飛んだ。
山中被告の前妻である由華ちゃんの母親は、山中被告と暮らしていたマンションのベランダから転落死した。
由華ちゃんは、フィリピン人の母親の故郷・マニラに預けられていた。
由華ちゃんを育てている親せきに案内されていくと、本物の山中由華ちゃんがいた。
クラスでただ1人の日本人である本物の由華ちゃんは小学校でいじめられ、不登校になったという。
由華ちゃんは「(名前は何ですか?)ゆか、まやなか。ゆか、まやなか」と語った。
正しく名前も言えない由華ちゃんは、実の父親らのたくらみで日本に入国できないことを知っていた。
由華ちゃんは「わたしは日本に行きたいです。(どうして?)お母さんが恋しいからです」と語った。
「日本にあなたになりすました由華ちゃんがいる話は聞いていますか?」と聞くと由華ちゃんはうなずいたが、「お父さん(山中被告)のことは覚えていますか?」と聞くと、うつむき何も答えなかった。
由華ちゃんにふんしたルナを保育園に送り届けに来た山中被告を直撃した。
記者「今、送りに行かれたのはどなたですか? 由華ちゃん?」
山中被告「うん」
記者「由華ちゃんですか?」
山中被告「うん」
記者「でもフィリピン人の女の子ですよね?」
山中被告「そうですよ」
記者「名前は違いますよね、そうすると」
山中被告「違いますね」
記者「違法だという認識はない?」
山中被告「何が?」
山中被告は矛盾した回答でしらを切った。
山中被告は、旅券法違反で逮捕され、「正式な手続きが面倒だった。ルナが実の娘よりかわいく思えた」と供述した。
その後、ルナは山中由華として育った日本から母親とともに強制送還された。
2人の「由華」の人生は、身勝手な大人の思惑によって運命を大きく狂わされた。
山中被告は求刑で罪を認め、東京地裁は5月28日、「身勝手かつ短絡的であり、犯行の動機に酌量の余地はない」として、懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。
そして5月、実の娘の由華ちゃんは日本に帰国し、おばあちゃんに育てられることになった。
(06/06 13:13)