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発信箱:「信」を取り戻せるか=中村秀明

 後期高齢者医療制度への批判に戸惑うことがある。

 特に「これじゃあ、うば捨て山だよ」「さっさと死ねというのか」「戦後の復興を支えてきた世代にひどい仕打ちだ」と声を荒らげる年寄りを目にすると、つらい。父親や母親に面と向かって、ののしられている気分になる。

 年寄りをないがしろにする気はない。逆に敬意を抱いてきたからこそ、キレたような激高ぶりに困惑してしまう。そうさせる制度が問題かもしれないが、酸いも甘いも知り尽くした人生の先輩には似つかわしくない。

 そこまで追い込んだものは何か。思い当たることがある。朝日新聞が3月に発表した世論調査結果。世の中で「信用できる人が多い」と思う人は24%で、「信用できない人が多い」は64%。「たいていの人は他人の役に立とうとしている」との回答は22%で、「自分のことだけ考えている」が67%にのぼった。

 ある財界人は「国を治める重要な要素の『信』が失われつつある」と憂えている。相次ぐ偽装、官の不正や職務怠慢、鈍い政治など数々の積み重ねが「信」をむしばんできた。だから高齢者は疑心暗鬼になり、現役や孫の世代の負担を論じるに至らないくらい内向きになってしまったのだろう。とすれば、負担の軽減とか、制度を廃案にするとかで解決するわけでもない。

 私たちは、不祥事によって信頼を失墜させ、存続の危機に立つ企業のような状態かもしれない。「経営者(政治家)が悪いんだ」と言い募っても意味はない。「信」を取り戻すために何をするかが問題なのだと思う。(編集局)

毎日新聞 2008年6月6日 東京朝刊

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