県内の医師確保対策の一環として、県は今年度から、女性医師を対象とした支援事業を開始する。カウンセリング制度の導入で、仕事や生活面の相談に乗る。08年の医師国家試験合格者に占める女性の割合は34・5%。しかし、出産や育児を機に辞めてしまう例が多いため、働き続けられるように環境を整えるのが狙いだ。ただ、実際に仕事と子育てを両立させている当事者からは「カウンセリングよりも子どもを預ける場所がほしい」と、より具体的な支援を求める声が出ている。支援の体制づくりは緒に就いたばかりだ。【伊藤絵理子】
■女性医師の割合、増加見込まれる
県医療整備課によると、新事業の柱は女性医師を対象としたカウンセリングの実施。県医師会に委託し、出産や育児休暇の取得や復帰、キャリア形成などについて主に先輩の女性医師が相談に乗る。6月中には委託契約を結ぶ方針。多人数を対象にしたセミナー開催も計画している。
厚生労働省によると、県内の女性医師の割合は、06年末で全医師4915人中702人で、14・3%にとどまる。医師国家試験合格者の男女比は00年に30・6%と初めて3割を突破、以後30~35%の間で推移しており、各大学医学部の男女比などから、今後は割合の増加も見込まれる。
一方で、医師資格取得から10年後には、女性医師の就業率は約75%にまで低下するという。県医療整備課の桜井恭仁医療政策専門監は「医師不足が深刻な中、女性医師が生涯を通じて働ける環境づくりは、医師確保には不可欠」と話す。
自らも3人の娘を育て、女性医師支援の必要性を感じてきた県女医会の山本蒔子(まきこ)会長(67)は「女性医師は増える一方なのに、いまだに子育ての負担は個人任せ。20~30代の出産・育児期に病院勤務医がどっと減り、非常勤やアルバイトで働く人が増える。女性医師がやりがいをもって働けるよう相談に乗り、病院側にも意識を変えてもらえるよう働きかけていきたい」と話す。
■現実に即した支援を望む声
一方、子育てとの両立に取り組む若手の女性医師からは、制度の充実を歓迎しつつも、より現実に即した支援を望む声もある。
東北大病院小児科で働きながら、1歳と3歳の2人の子どもを育てる女性(31)は「育児もしたいが仕事もしたい。必要なのは、カウンセリングよりも、子どもを預かってもらえる場所」と話す。
女性は午前6時に起きて食事の支度、着替え、弁当作りなどをこなしたあと、2人を別々の幼稚園と保育所に送り届け、外来勤務を担当。午後7時までに2人を迎えに行く。夜泣きや授乳のため、夜中も2時間に1度は起きる日々だ。同じく医師の夫(32)も多忙で、手伝ってもらえるのは週末に限られるが「うちは協力的な方で、全部1人でこなす人もいる」という。
医師としての悩みも当然ある。「勉強会や講演会に出たいけれど、業務が終わる午後7時以降の開催が多く、子どもを預かってもらえる場所がない」と訴える。
「本当は男性と同じように働きたいが、家庭も大切。サポートしてくれる周囲に申し訳ないと思いながら、割り切って帰るしかない。その状況を分かってもらえるかどうかで、ストレス度は全然違う」と理解を求める。
■仕事と家庭を両立できない
県内の医療機関には現在、34の院内保育所が設置されているが、定員が少なかったり、預かる時間が短いなど、需要には応えきれていないのが現状という。子供の発熱時に預かってもらえる「病児保育」を望む声も多い。
11~16歳まで3人の子育てをする女性医師(44)は「子どもが小学生になると、生活の世話よりも勉強を教えたりする教育面に比重が移る。仕事を続けるには、子どもとの付き合い方を割り切らないとならなくなる」と指摘する。
「短時間の働き方が認められれば、そういう働き方をしたいと思う人も増えると思うが、今はまだ、若い女性医師が仕事と家庭を両立したいと思える環境にはない。医師だけでなく、社会全体で子育てを支える仕組みづくりが大切」と話す。
毎日新聞 2008年6月6日 地方版