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2008-05-06 baywingの投稿

避けられますか? いつか来た道(取材現場から)

テーマ:ホンショク

避けられますか? いつか来た道(取材現場から)

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 「約束が違う」——。関西の有名私大に通う関口達也さん(仮名、23)は今春、東証マザーズ上場のIT(情報技術)ベンチャー、ドリコムに入社しているはずだった。

 ネット広告やブログのシステムを開発する同社で「3年後に新規事業のリーダーを任せる」と言われ、就職活動の「勝ち組」を自認していた。外資系コンサルタントなど有力企業の内定も辞退した。

 しかし、昨年秋に事態は一変。会社から「内定者は光通信と共同出資するセールス会社に出向してもらう計画がある」と通告された。携帯電話の販売が当面の業務になるという。

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関口達也さん(仮名)は遠回りして新しい就職先を見つけた

 早慶、京大などそうそうたる学歴の内定者らは一様に動揺。「内定辞退を促しているのでは」「企業の採用活動が終わっている時期に言うなんて」と怒りをあらわにする者もいた。「業績悪化で人員が余剰となり、既存社員に退職勧奨もした。事実上の内定切りと言われても仕方ない」と当時ドリコムで採用を担当した加藤謙介さん(27)は振り返る。

 結局、12人の内定者のうち8人が入社を断念。内藤裕紀社長(29)は「辞退は内定者の都合」としながらも「(人員計画の)見通しは甘かった」と語る。関口さんは留年を余儀なくされ、2度目の就職活動に。今年4月中旬に総合商社から内定を得て、長い就職活動をようやく終えた。

大量採用に変調の影
 ドリコムの例をITベンチャーの勇み足とは片付けられない。世界的な景気変調の中で、大和証券グループは「1年前とは事情が違う」として来春入社予定者の採用を今春実績の1300人弱から300人以上減らす。損害保険ジャパンなども採用減を予定、不動産・住宅業界は主要120社の合計で1割以上を減らす。多くの企業が大量採用に沸く中、変調の影が差す。

 「長年勤めた会社を離れるのはつらい」。三上一成さん(仮名、46)は昨年10月、大手家電メーカーを退社した。会社が管理職クラスを対象に募集を始めた早期退職に手を挙げた。共に働いた上司に「早期退職に協力してくれ」と切り出され、ぼうぜん自失の同僚たち。目に見えて士気が低下する職場に見切りをつけた。

 管理職など正社員の処遇にも潮目の変化が見えてきた。例えば減少傾向にあった正社員のリストラ。東京商工リサーチによると2007年に早期退職の募集を公表した企業は60社と5年ぶりに増加に転じ、早期退職者は合計で1万3000人を超えた。景気減速感が強まった年明けからはさらにペースが上がり、日本経済新聞社の調べでは現在までに30社以上が募集を表明した。

 今春闘で争点となった非正規社員の待遇改善にも見直し機運が広がる。正社員への積極登用で応える企業が相次いだが、トヨタ自動車は08年度、期間従業員からの正社員登用を前年度の1250人から3割も減らす。「生産の増減に備える雇用の調整弁は必要。すべてを正社員にはできない」とトヨタグループの幹部。非正規の待遇改善も必ずしも一本調子ではない。

 そのトヨタは09年3月期、米国の需要不振や円高で前期比2割程度の営業減益となる見通し。日本経済をなんとか支えてきた輸出産業が減速し始めた。逆風の中、固定費削減に向けた人員調整の流れが、わずかな潮目の変化にとどまらない可能性が高まる。

どう生かす、唯一の資源“人財”
 求職者1人に何倍の求人があるかを示す有効求人倍率。1倍をはさんで人手不足感が強まる“山”と余剰感が出る“谷”を大きな周期で繰り返してきた。
 
 これまでの山は3つ。1967-74年と88-92年。そして06年から07年。特徴的なのはひとたび通年で1倍を割ると0.5倍前後の深い谷底を打つまで浮上に転じないことだ。かつての2度の谷( 75年からと93年から)はともに脱するまでに13年もの時間がかかった。

 今年3月の有効求人倍率は0.95倍で、4カ月連続の1倍割れ。また新規求人件数も前年同月比21.3%減。このペースが通年で続くとしたら……。

 採用抑制、管理職リストラ、非正規社員の増加——。バブル崩壊以降に見た「いつか来た道」を再びたどるのか。企業業績の改善に固定費削減は避けられないが、働く個人の意欲までそいでしまうと組織に暗い影を落としかねない。

 「サービス残業」「名ばかり管理職」「うつ病の増加」。ニホンの職場は90年代のどん底からはい上がったものの、負った傷跡はまだまだ生々しい。

 長期的に見れば少子化で労働力減少の危機に立つ。唯一の「資源」である“人財”を使い捨てず、どう生かし切るか。最大限に活力を引き出し、成長へのエネルギーに変える努力を怠ればこの国は沈む。急速な景況の悪化は「失われた15年」に何を学んだかを問いかけている。
(働くニホン取材班 東昌樹)