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【社説】

高齢者医療 国民的論議を深めたい

2008年6月6日

 七十五歳以上が対象の後期高齢者(長寿)医療制度を廃止する法案が参院の厚生労働委員会で可決された。大切なことは、よりよい制度を目指して党派の対立を超えて十分に論議することだ。

 新制度は、四月のスタートと同時にさまざまな不備が露呈した。

 厚生労働省は当初、一般的には保険料は低所得の高齢者では下がり、高い場合には上がる傾向にあると強調してきた。

 厚労省がまとめた新制度への移行に伴う保険料の増減調査の結果によると、保険料が減った世帯は高所得者では78%に達したが、低所得者では61%にとどまった。

 なぜ、従来の説明と逆の結論になったのか。

 新制度では、保険運営が都道府県単位になり、国民健康保険(国保)時代にあった市区町村独自の保険料負担の軽減措置がなくなったことなどが影響しているのは確かだろう。

 それより大きな要因は、市区町村ごとに異なっていた国保保険料の賦課方式の中から政府に都合のいい方式を選び、十分な調査をせずに保険料試算を行ったことだ。

 説明に偽りがあったわけで、高齢者の怒りが増すのは当然だ。

 与党は保険料についての減免基準を引き下げるなどの改善策をまとめた。実施されれば、低所得者の負担はある程度緩和されるだろう。だが、高齢者の反発を受けて急いでまとめたもので、付け焼き刃に近い。毎年必要な数百億円の財源のめどは立っているのか。

 増大する医療費を賄うには、高齢者にも応分の負担を求めるというのが新制度の骨格だ。小手先の改善よりもこの点についての説明が求められているのではないか。

 新制度が七十五歳で線引きしたことで、多くの高齢者が「切り捨てられた」と受け止めている。

 こうした怒りを背景に、野党は廃止法案を可決した。

 三月まで運営されていた老人保健制度に戻し、その間に別の制度を考えるという。だが、医療制度の設計は一朝一夕にはできない。衆院では与党が多数のため法案成立の見通しはないとはいえ、あらたな制度への展望がなければ責任ある対応とはいえない。

 新制度は発足直後から混乱を重ねている。

 医療費が増大する中で、高齢者と現役世代とがどのように負担の痛み分けをして皆保険制度を維持していくかの議論をさらに深める必要がある。

 

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