2009年度の政府予算で歳出を増やすよう求める圧力が与党や各省庁の間で強まってきた。小泉純一郎政権以来の歳出抑制路線への不満に加え、次期総選挙をにらんだ政治的な思惑もちらつく。深刻な財政状況を考えれば、歳出の手綱を緩めるゆとりはない。福田康夫首相はこうした圧力に屈しないようにすべきだ。
政府は経済財政運営の基本姿勢を示した「骨太の方針2006」で、11年度に基礎的財政収支(国債の元利払い費を除いた歳出と国債発行を除く歳入の収支)を黒字にするという目標を定めた。そのために、社会保障費や公務員の人件費の伸び抑制、公共事業費の減額など、主要な歳出項目についても具体的な抑制方針を決めている。
だが、こうした歳出抑制の方針に対する反発が与党内からは高まっている。とくに強いのは社会保障費の抑制に対する拒否反応だ。今年始まった後期高齢者医療制度への批判が高まる中で「歳出削減はもう限界。むしろ高齢者の負担緩和のために歳出増が必要」との声が出ている。
これに呼応するように、自民党の文教族議員から教育費の増額論が強まるなど、「予算のぶんどり合戦」の様相も見えてきた。首相がガソリン税などの道路特定財源を一般財源にすることを決めたことも、歳出拡大要求に火を付ける形になった。
もちろん、国の予算はその時々の経済状況や国民のニーズに合わせて柔軟に編成すべきものだ。だが、日本の債務残高は経済規模と比べた水準で見れば先進国で最悪であり、財政再建は先送りできない。財政規律が緩めば国債が市場で売られ、金利上昇による利払い費増加という形で跳ね返ってくる恐れもある。
主要項目の歳出は従来の方針を崩さずに抑制するのが筋である。数字合わせではなく、制度の見直しなどを通じて歳出を抑える余地はまだあるはずだ。どうしても増やさざるを得ない場合は、その分をほかの項目から削減するなど歳出規模を全体として増やさないようにすべきだ。
道路特定財源の一般財源化により、従来道路建設に充てられていた予算の一部をほかに回せるようになったのは確かである。
だが、そもそも環境関連税への衣替えなど抜本的な税制改革の中で、同じような規模の財源が確保されるのかどうかは不透明だ。景気停滞で税収も全体として伸び悩んでいる。地方に配分されていた資金も安易にははがせない。予算が配分されるにしても、優先順位が非常に高い項目に限定されるべきだろう。