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2008年06月06日(金曜日)付

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問責決議―党首討論をお忘れなく

 出す、出すと言いながら、なかなか出さなかった福田首相に対する問責決議案を、民主党がついに出すことになった。国会会期末の来週、参院に提出し、共産、社民などの賛成で史上初めて可決される見通しだ。

 衆院での内閣不信任決議が内閣総辞職か衆院の解散を首相に義務づけているのと違って、参院の問責決議には法的な効果は何もない。それでも民主党は、参院としての意思をはっきり示すという意味で、それに匹敵する重みがあると主張してきた。

 福田首相は問責が決議されても黙殺する構えを崩さない。野党が審議拒否で対抗したとしても、この国会はすぐに閉会してしまうから、政権を追い込む効果はほとんどない。

 それでも、国民へのアピールとして決議の政治的な意味は小さくはない。

 後期高齢者医療制度やガソリン税をめぐる政府の対応に世論は怒り、福田内閣の支持率は2割を切っている。そんな政権に、参院から明確な「ノー」を突きつける。政権交代を迫る決意を示す。そうした効果は確かに大きい。

 秋には民主党の代表選がある。対決姿勢をはっきりさせることで党内の結束を固め、再選へ弾みをつける思惑も小沢代表にはあるのかもしれない。

 だが、野党第1党の党首として、小沢氏には問責決議の前にすべきことがあるのではないか。11日に予定されている首相との党首討論である。

 前回、4月はじめの党首討論は聞きごたえがあった。首相は応酬のなかで「私どもは国会運営に可哀想なくらい苦労しているんですよ」と、感情をあらわに小沢氏をなじった。そこには、日本の政治が実質的に初めて経験する「ねじれ国会」を前にした与野党の姿があった。

 それから2カ月。2人の党首がどんな主張をぶつけ合うのか。白熱した討論を期待する人は多いに違いない。

 最大の焦点はやはり後期高齢者の医療制度の問題だろう。民主党が言うように、制度をいったん元に戻して新たに作り直すべきなのか。政府与党が検討している低・中所得者向けの負担軽減策がいいのか。社会保障の受益と負担のバランスの将来像を含めて、聞きたい論点はいくつもある。

 だが、問責決議で野党が審議拒否に入れば、党首討論は流れてしまう。ここは何よりもその実現を優先し、決議はその後に回すべきだ。

 「口べた」を自認する小沢氏は、党首討論を敬遠しているように見える。この国会でも、たった1度しか行われていない。来週も見送りとなれば、政権交代を掲げる2大政党の党首としての胆力が疑われよう。

 首相との対決姿勢を鮮明にしたいというのなら、党首討論ほどの見せ場はあるまい。

食糧サミット―不足の時代の見取り図を

 世界はいま「食糧ショック」とも呼ぶべき事態に直面している。小麦や大豆、コメなど主要穀物の価格が暴騰し、アフリカやアジアの貧しい国で食糧を求める人々による暴動が頻発している。自国の食糧の囲い込みに乗り出す国も増えている。

 これに対処しようと、国連食糧農業機関(FAO)主催の「食糧サミット」がローマで開かれた。福田首相をはじめ50カ国の首脳が出席したことで、世界にとって重要かつ緊急の課題であるというメッセージを発した。その意義を評価したい。

 穀物価格が上昇し始めたのは1〜2年前だ。主要農業国での干ばつ被害や途上国での需要増などが重なり、今年に入り高騰に拍車がかかった。事態を憂慮した潘基文(パン・ギムン)国連事務総長がこの会議を事務レベルから首脳レベルへ引き上げ、参加を呼びかけた。

 主要穀物の国際価格はこの1年で1.5〜3倍へ上昇した。これでは貧しい国々は必要な量の食糧を買えなくなる。会議では主要各国から食糧支援策が表明されたが、当面は支援を広げて事態の悪化を防ぐしかなかろう。

 問題は、高騰が一時的な現象ではなさそうなことだ。金融市場から逃げ込んだマネーによる投機的な動きが鎮まったとしても、穀物価格はかなり高い水準にとどまる。専門家の間ではそんな見方が強まっている。

 というのも、中国やインドのような人口大国の「胃袋」が経済成長とともに急速に大きくなっている。世界人口が2050年には今より25億人も増えて90億人に達する。需要が膨らみ続けるのは間違いないからだ。

 だからこそ、会議では食糧不足の時代へ向けた国際秩序づくりが期待された。しかし、この面では対立点の方が浮き彫りになったのは残念だ。

 第一に食糧の輸出国と輸入国との立場の違いである。輸出禁止や輸出課税など輸出規制を始めた国は15カ国にのぼる。輸入食糧に頼れないなら食糧貿易をやがて縮小させ、輸出国にも損失になる。しかし、最大の食糧純輸入国・日本は「輸出規制の自粛」を求めたが、輸出国は「自国内の食糧確保が最優先」との立場を譲らなかった。

 米国やブラジルなど農産物からつくるバイオ燃料を推進する国と、それ以外の国との違いも鮮明だ。これも穀物高騰の要因だとして批判を浴びているが、推進国側は見直すつもりがないことを明らかにしている。

 こうした対立をどう解決して新しい秩序をつくるのか。穀物の増産を促す仕組みを世界的にどう築くか。日本国内では農政の転換が不可欠だ。

 長く続いた食糧の余剰から不足へ。時代の転換に合わせた見直し作業がこれから必要になる。7月の洞爺湖サミットに向けて準備を急ぎたい。

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