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【正論】筑波大学名誉教授・村上和雄 JR事故生還者がみせた奇跡

2008.6.2 02:58
このニュースのトピックス正論

 ≪「愛」は脳を活性化する≫

 この4月、特別フォーラム「私は生きる・あの日を忘れない」が大阪で開催された。これは、2005年4月25日に起きたJR福知山線脱線事故から3年になるのを記念して行われた。

 この事故で、107人が死亡、550人以上が重軽傷を負った。この中で、108人目の犠牲者になるといわれていた鈴木順子さんが、今回の特別フォーラムの主役であった。鈴木順子さんは、家族の懸命の介護と、本人の強い生命力で驚異的な回復を遂げている。

 鈴木順子さんが助け出されたのは、事故から約5時間後、意識不明で自発呼吸も間もなく止まった。医者から高次の脳機能障害と診断され、「回復の見込みはない、覚悟しておいてください」と死の宣告が家族に下された。

 しかし、家族は回復の奇跡を信じた。意識不明の順子さんの耳元で「順ちゃん、順ちゃん奇跡を起こそうよ」と言葉をかけ続けた。

 事故から約1カ月後、順子さんの母もも子さんから私のところに電話がかかってきた。私がラジオ放送で「笑顔や明るい心が良い遺伝子をオンにする」と話していたのを聞き、勇気づけられたという内容であった。私は大変うれしく思い、「愛は脳を活性化する」と、私の著書にメッセージを書いて、もも子さんに贈った。

 これがきっかけとなり、私は鈴木さん母子と昨年7月に対面することになった。実際にお会いして、その回復ぶりに驚かされた。順子さんが笑みを絶やさず「ありがとう」「おかげさまで」という姿を見て感動した。

 ≪驚異的な回復ぶりに感動≫

 母もも子さんの「村上先生との出会いが心の支えになった」という話を聞いて、私は順子さんの回復に少しでもお役に立てたことに心の底から喜びが込み上げてきた。

 再び鈴木さん母子に会ったのは今年4月末の「特別フォーラム」だった。順子さんは自分で車いすを操りながら舞台に登場した。この回復ぶりを見てあらためて感動した。身体はまだ不自由であるが、神々しいとしか言えない良い顔であった。

 事故前は、アトピーで苦しんでおられたが、事故後、それはすっかり消え「アトピーで苦しんでいる人のために何かできたらいいなあ」と思っておられるのを知った。

 順子さんの発する言葉はたどたどしいが、究極の真理や深い悟りにも似たものがある。その順子語録の一部を紹介しよう。

 「形のないものでも、大切なものがいっぱいある。愛情とか友情とか」

 「鼻で息をする、目でものを見ることができる。あたりまえやと思ってるけど、あたりまえやないんや。素晴らしいことや。誰が酸素を作っているの。その酸素を作っているのは木々やろ。それなのに自分は一人で生きていると思ってるねん。生かされていることを忘れているねん。酸素のない宇宙では生きられへんのに…」

 「生きているだけで芸術なんや」

 実は、順子さんに似たような例は他にもある。その一つは、脳科学研究の日本のリーダーの一人であった、故松本元・博士から聞いた話である。

 ≪人の「心」・思いに秘密≫

 交通事故で脳に重大な損傷を受けたN君は、執刀医から「植物状態となる可能性が非常に高い」と言われたほど、状況は良くなかった。N君のご家族は事故後、毎日の大半をN君のベッドサイドで共に過ごし、彼を励ますための言葉をかけながら左半身に愛撫(あいぶ)を続けた。こうした献身的な看護の結果、N君は驚異的な回復を示した。その後、N君は大学に進学して普通の社会生活を送るに至った。

 もう一つは、旧ソ連のノーベル物理学賞受賞者レフ・ランダウの例である。自動車事故で、頭部に重大な損傷を負い、完全な意識不明の状態に陥ったが、その後、妻の話しかけに応じ、一時意識が戻ったと報告されている。

 この様な結果から、松本博士は、脳に重大な損傷を受け、植物状態であっても、家族が傍にいて、話しかけ愛撫してくれることにより、脳活性が向上し、意識が覚醒(かくせい)することが起こりうると確信した。

 私は人の心や思いが遺伝子を活性化するに違いないと考え「心と遺伝子研究会」を立ち上げている。以前、松本博士と協力して「愛は遺伝子や脳を活性化する」という研究をしようと意気込んでいたが、松本博士は他界され大変残念である。彼からの最後のメッセージは、脳型コンピューターが誕生したという喜々としたものであった。私は愛が良い遺伝子のスイッチをオンにすると確信している。このことを遺伝子レベルでぜひ証明したいと思っている。(むらかみ かずお)

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