インターネット上の有害情報から子どもを守るための対策法案について、自民、公明、民主、共産の与野党四党による実務者協議が合意した。今国会中の法案成立を目指している。
男女の知り合う場になっている「出会い系」サイトにアクセスして事件に巻き込まれたり、「学校裏サイト」などの掲示板でいじめにあうなど、ネットを通じて子どもたちが被害を受けるケースが後を絶たない。出会い系で買春被害にあった十八歳未満の九割以上が携帯電話からアクセスしたという統計もある。有害サイトを野放しにしておくわけにはいくまい。
法案は、携帯電話会社やネット接続業者に、十八歳未満の子どもが使う携帯電話やパソコンに有害サイトの閲覧を制限するフィルタリングサービスの提供を義務づけることが柱になっている。携帯各社は昨年末、増田寛也総務相から未成年の携帯電話には、保護者の希望がない場合を除いて原則、フィルタリングサービスに加入させるよう要請を受け、対応しているが、法案は一段の規制強化となる。これまで通り、保護者が閲覧制限を不要とすれば解除できる。
問題になったのは有害情報を判断する第三者機関の扱いだった。国が何らかの形で関与すべきだと主張する自民党と、民間の自主性に委ねるべきだとする民主党とで意見が分かれた。
これに対して、ヤフーや楽天などネット関連企業五社は、国が関与するのは「実質的な情報統制にほかならない」として、「表現の自由」の観点から問題だとする声明を発表した。だれもが自由に情報発信できるのがネットの魅力だ。国の規制に、業界が危機感をあらわにしたといえよう。
日本新聞協会メディア開発委員会も「いったん有害情報が定義されると、表現内容の規制に拡大しかねない」との意見書を国会に提出した。
最終的には「青少年の健全育成のために、有害サイト対策を法案にまとめたい」という与野党の思いが一致した。第三者機関への国の関与は見送り、フィルタリングサービスの調査研究などをする団体を国に登録する仕組みを残して、国によるかかわりを一部にとどめた。
ただ、実際の運用に当たっては第三者機関が、有害サイトの線引きを、どこで引くかなど課題もある。スクラムを組んで国の関与を否定した以上、ネット関連業界には一段と重い責任が求められよう。安心して子どもたちがネットを利用できるよう、実効ある取り組みが必要だ。
違法な二重派遣を手助けしたとして、警視庁は日雇い派遣大手グッドウィル(GW)の課長ら三人を職業安定法違反(労働者供給事業の禁止)ほう助の疑いで、GWから派遣された労働者を二重派遣していたとして、港湾運送関連会社「東和リース」の元常務を同法違反容疑で逮捕した。
二重派遣が刑事事件に発展したのは初めてだ。派遣業界の信用を失墜させたGWの責任は極めて重いと言わざるを得ない。
調べでは、元常務は二〇〇六年五月―〇七年六月ごろにかけて、GWから派遣された労働者五人を二十七回にわたり、港湾運送会社二社に二重派遣した疑い。課長らGW側三人は二重派遣を知りながら派遣を続け、手助けした疑いだ。課長と元常務は容疑を大筋で認め、ほかの二人は否認しているという。
労働者を一人派遣するごとに、GWは約五千円、東和リースは約二千円と手数料を二重取りしていたことも分かった。警視庁はGW経営陣の関与についても慎重に調べている。全容解明を急いでもらいたい。
日雇い派遣は、柔軟な働き方ができる手軽さもあって近年急拡大した。しかし、低賃金で不安定な就労を強い、安全対策もおろそかになりがちといった批判が根強い。二重派遣は、労働者に対する企業の責任をあいまいにする。労働者の安全を軽視する違法派遣は決して許されるものではない。
厚生労働省は一月、違法な労働者派遣を繰り返したとしてGW全事業所に四―二カ月の事業停止命令を出した。今回の従業員逮捕で、事業の先行きにも暗雲が垂れ込めた形だ。違法を放置してきたツケは重い。業界としても違法行為の排除に全力を挙げなければ信頼回復はおぼつくまい。
(2008年6月5日掲載)