パリ(AP) 「妻が処女だとうそをついた」として婚姻の無効を求めた男性の訴えを裁判所が認めたことをめぐり、フランス国内で論争が巻き起こっている。国の圧力で本人たちの意向を無視して控訴される騒ぎにまで発展した。
問題になっているのはイスラム教カップルの婚姻をめぐる訴訟。リールの裁判所は4月1日に非公開で言い渡した判決で、女性が処女だとうそをついたと認定。2人の結婚は婚前交渉の経験がないことが前提条件だったとして、契約違反があったと認めた。
この判決がリベラシオン紙の報道で暴露され、女性の権利をないがしろにした判決だとの批判が巻き起こった。イスラム系移民家庭出身のファデラ・アマラ都市政策担当相は「女性の自由と解放に対する死刑宣告に等しい。過去に逆戻りしている」と批判。司法省も「わが国の全国民、特に女性が懸念している」と表明した。
フランソワ・フェロン首相は「この判決を判例として定着させないため」控訴の必要があると主張。こうした圧力た高まる中で3日、裁判は控訴され、リール近郊の高裁で6月中に審理が始まることになった。裁判官3人の合議になる可能性もある。
イスラム教の女性が結婚に際して処女であることの証明を求められるしきたりが一部にあることも問題になった。
イスラム教の若い女性が処女証明書を偽造したり再生手術を受けることも珍しくないという。実際、AP通信が2006年に非公式に行った調査で、パリではそうした手術を実施したり偽の証明書を出しているクリニックや医師が多数いることが分かった。
しかし騒ぎがこれほど大きくなったことについて、当事者は戸惑った様子だという。女性は20代の学生、男性は30代の技術者。弁護士によると、2人とも控訴する意思はなく、女性はラジオ番組のインタビューで「私は何も頼んでいない。他人にとやかく言われることも、問題がこれほど長引くことも望んでいなかった」と訴えた。