在日朝鮮人をめぐる時事問題
Vol. 7


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  • 1996/02/21 配信

    『週刊文春』の「闇」

    住宅金融専門会社(住専)の大口融資先である富士住建(大阪市)などが,『週刊文春』の記事で名誉を棄損されたとして,発行元の株式会社文芸春秋などを相手に謝罪広告の掲載と一千万円の損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こしました。

     問題になっているのは,「富士住建と阪和銀行副頭取射殺事件との『黒い闇』」と題された無記名のトップ記事で,2月22日号に掲載されたものです。各種の報道によると,原告側の主張は「安原治富士住建社長が在日韓国人実業家であるとの事実に反する前提のもと,原告らが同事件や韓国の地下組織と関係があるかのような印象を与え名誉棄損」であるとのこと。

     記事の一部を引用すると,

     (射殺された)小山副頭取の取り立てに対して,最も腹を立てていたのは,住専(住宅金融専門会社)最大の借り手である富士住建(本社・大阪市住吉区,安原治社長)であったとされる。

    …中略…

     関西の組関係者の間には,こんな話が伝わっている。
    「安原は,バブル崩壊,住専問題で大きな傷を負ったけど,関西では立派な在日韓国人実業家の一人ですわ。彼は日本人のヤクザとは個人的な付き合いはほとんどない。土地の売買で,日本人ヤクザが関係する会社とは取引があるけどな」
     ある組関係者はこんな話を披露した。
    「犯人が捕まってへんから,憶測でモノは言えんけど,あの副頭取射殺事件は富士住建がらみという話は聞いたことあるな。富士住建の関係者が,韓国の地下組織を動かしたという話も聞いた。実際,刑事がその線を追って,あるヤクザに聞き込みに来たという話も知っとる。そやけど,今となっては,すべてが暗闇や」
     住専問題の「闇」を追っていくと,韓国の地下組織にまで触れねばならなくなる。

    …中略…

     富士住建は,……これまで地元暴力団とトラブルを起こしたという話は聞かない。
    「和歌山には大物韓国籍フィクサーやヤクザも多いし,裏でしっかり話がついているんやと思います。……」

    …中略…

     和歌山市内で土地疑惑問題を取材していた記者の中には,ある韓国人実業家に連なる関係者から,
    「アンタは一五万円,副頭取クラスなら百万円で殺(や)る人間をいくらでも連れて来られる」
     と言われた者もいる。日本人なら,そんな金ではまず動かないことから,請負人は外国人ということになる。

    …中略…

    落ち着いた拳銃の使い方から考えると,兵役経験のあるプロの殺し屋ではないか。
     撃つ前に,「部長!」と呼びかけたのも気になる。“社長”と“部長”という言葉は,韓国や東南アジアでは,日本人にたいしてごく日常的に使われている。

     ということで,ようするに,在日韓国人である安原富士住建社長が韓国のヤクザ組織に依頼して阪和銀行の小山副頭取を射殺した,ということを非常に強く示唆しているわけです。

     『週刊文春』のこの記事は,全体を通して,「在日韓国人の事業者であれば韓国のヤクザ組織と関係があって当然であり,韓国のヤクザであれば安値で殺人を請け負ってもおかしくない」という論調です。しかし,ちょっと待ってほしいですね。

     富士住建の社長が在日朝鮮人なのかどうか,富士住建が在日朝鮮人のヤクザ組織と関係があったかどうか,その在日のヤクザ組織が韓国のヤクザ組織と関係があったかどうか,そんなことは知りません。

     しかし,「在日韓国人の事業者であれば韓国のヤクザ組織と関係があって当然」という論調はあきらかに誤りです。また,「韓国籍ヤクザ」という表現で,在日のヤクザ組織と韓国のヤクザ組織を同一視しているのも誤りです。

     こうしたことは,少しでも調べれば明らかなことであり,むしろ,在日朝鮮人や韓国への偏見を故意に利用して,あいまいな情報や虚偽の情報を疑惑にでっち上げている,という印象を受けます。

     記事の一部には信頼できる情報が含まれているのかもしれませんが,全体の論調としては,差別を利用し助長するきわめて悪質なものだと言わざるをえません。


  • 1996/02/18 配信

    「在日朝鮮人語」とは

     このところちょっとニュースが少ないので,いや,ここに書きたくなるような出来事が少ないので,今日は最近読んだ本について雑感を書きとめておきます。

     最近読んだ本と言ってもいろいろありますが,HAN-B面で紹介するために読んだ2冊の本がいい味を出していました。辛淑玉『韓国・北朝鮮・在日コリアン社会がわかる本』(KKベストセラーズ)と,鄭大均『韓国のイメージ』(中公新書)ですが,今日ここで触れるのは辛淑玉さんのほうです。

     この本は,まず目次をみてひと笑いさせてもらいました。第一章「今さら聞けない超素朴な質問」のはじまりは,なんと“「韓国人」と「朝鮮人」はどう違うのですか?”です。(@_@) なるほどコリャひとに聞けないなと,ひとくさり笑ったあと,しかし,このあまりにも素朴な質問によって,あらためて朝鮮民族や在日社会が抱える問題の複雑さ,根深さ,わかりにくさをハッキリと自覚させられました。

     民族の呼び方の話をはじめると長くなるので辞めておきますが,在日社会の性質を巧く言いあらわした言葉に,“在日朝鮮人どうしは日本語で会話をしていても,それは日本語ではなく在日朝鮮人語だ”というものがあります。

     これはべつに,朝鮮学校の生徒たちが話す朝鮮語まじりの日本語のことを言っているわけではありません(ちなみに,こういうのは「ウリマル=朝鮮語」と「イルボンマル=日本語」をもじって「ウリボンマル」などと言っています)。

     会話というものは雑多な知識や価値観を暗黙の了解として共有してはじめてなりたつものですが,在日社会では一般的に共有されていて常識のようになっているにもかかわらず,日本人社会にはまったく知られていないような知識や価値観がとてもたくさんあるということを「在日朝鮮人語」という言葉であらわしているわけですね。

     たとえば,この本の最後のほうに,『月はどっちに出ている』をみて「在日コリアンが笑うシーンと日本人が笑うシーンが明確に分かれていた」という指摘があります。たしかに,冒頭の結婚式の場面などは多くの在日朝鮮人が大笑いするところでしょうが,僕が非常勤で社会学を教えている看護学校で見せても,同じ場面に反応する日本人学生はまずいませんね。

     僕の『ソシオロジ』の論文をとっても,背後に強いメタメッセージを読みとる在日朝鮮人は少なくありませんが,日本人研究者で同じことを指摘するひとはあまりいません。もっとも,僕が学術論文にそうしたメッセージを込めたのかというと,それは分かりませんけどね。;-)

     辛淑玉さんの本には,「在日朝鮮人語」を日本語に翻訳して伝えようという想いが感じられます。それで「在日朝鮮人語」が理解してもらえるとは思いませんが,「在日朝鮮人語」があるということを広く知らしめるためには,十分おもしろいものになっていると思います。


  • 1996/02/15 配信

    独島=竹島領土問題2

     今月12日に掲載した竹島問題の年表ですが,一部に修正・追加すべき点が見つかりましたので,あらためてお知らせします。

    512年新羅が干山国(いまの鬱陵島)を征服し,竹島を領有
    159?年豊臣秀吉が朝鮮を侵略した際,竹島を現島根県に編入
    1618年伯耆国(鳥取県)の大谷,村川両家が江戸幕府から竹島を拝領する
    1692-93年朝鮮から竹島近海への出漁が盛んになったことにたいして,江戸幕府は対馬藩主の宗氏を通じて出漁禁止を申し入れたが,朝鮮は竹島の領土権を主張して交渉は決裂
    1696年江戸幕府は李朝にたいして,鬱陵島近海への日本人遠航を禁止したとの公簡を送付
    1836-37年竹島事件(よく分からない事件ですが,形式的には,1696年の禁止令を無視したかどで浜田藩の役人が切腹しているようです)
    1875年竹島を朝鮮領と記載している地図(日本陸軍参謀局)が発行される
    1877年明治政府の太政官が,竹島は朝鮮領土であり日本地籍に含まれないとの決定を内務省に送付
    1881年李朝の抗議をうけて,明治政府は日本人漁船の鬱陵島,竹島侵犯に謝罪の公簡を送付
    1895年閔妃暗殺・陵辱事件(日本排斥政策をとった閔妃を日本が虐殺した事件)
    1896年義兵闘争勃発(李長末期の反日武装闘争)
    1904年日本軍の脅迫のなか,「第一次日韓協約」の覚書に調印させられたことにより,大韓帝国は財政と外交を奪われる
    1905年日本政府の閣議決定,つづく島根県の告示により,竹島は日本の領土として宣言されるとともに「竹島」が日本での正式名称となる。ただし大韓帝国には知らされず。
    1905年「第二次日韓協約」により朝鮮支配は決定的となる
    1906年前年の島根県告示を大韓帝国政府に通報
    1946年GHQ覚書により,竹島は日本の行政がおよぶ範囲外とされ,日本漁船の操業停止区域(マッカーサー・ライン)に入れられる
    1952年韓国が海洋主権を宣言した「李承晩ライン」に竹島が含まれる
    1954年日本の外務省は口上書を韓国に送付し,GHQの覚書は暫定的なものであり竹島の領有権が日本にあることを主張。たいする韓国は,日本の主張を否定する通告を出し,灯台などを建設するとともに官憲,住民を移すことで実効支配を決定づける
    1960年日韓で漁業協定成立
    今日に至る


    高知県国籍条項撤廃を正式決定へ

     先月6日にお伝えしていた,高知県職員の採用試験から「国籍条項」が撤廃されそうだという件ですが,今月3日に続いてまた若干の続報です。

     今夏に実施の同県職員採用試験から日本国籍であることを受験資格とする国籍条項を完全撤廃し,永住権を持つ外国人の受験を認める方針を最終的に固めたもようです。都道府県レベルでは初の試みで,今月下旬にも正式発表するとのことです。


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