ベンダーに8つの改善求める
TC-Stationを検証用に導入することが決まった時点から、システム構成などの検討が始まった。構成決定後はシンクライアント・システムに必要なサーバーやストレージなどの機器を導入。システムの構築は主に大和総研が担当した。サーバーなどの機器は本番用のシステムではデータセンターに設置する予定だったが、まだシンクライアント用の通信回線を確保していなかったため、検証用システムでは本社ビル内に設置することになった。
検証用システムの構築が終わったのは2006年10月。それと同時に、シンクライアント・システムの開発推進プロジェクトが正式に発足した(図2)。プロジェクトのメンバーはすぐにシステムの検証に取り掛かった。
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図2●大和証券のシンクライアント・システム開発体制
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検証を始めると、鈴木取締役はTC-Stationについて「ここを変えればもっと良くなる」と思う部分がでてきた。それはサーバーにある起動ディスクをなくすことだった。サーバーは端末と同じく、ディスクの故障について頭を痛めていた部分。そこで、サーバーの起動ディスクを外し、SANから起動ができるようにならないかとNECに要望を出した。
だが、サーバーから起動ディスクを外すことなど現場のプロジェクト担当者の意向だけでできるものではない。NECは当初「さすがに仕様を変えるのは無理」と反対した。それに対し鈴木取締役は「ユーザーにとって、SANから起動できることによる利点は多いはずだ。この問題をクリアすることはNECのためにもなる」とさらに応じる。このようなやり取りが両社の間で繰り返された。
NEC側のプロジェクト・マネジャである矢部茂第三金融システム事業部プロジェクトディレクターは「大和証券の店舗システムで使っているキーボードも専用設計だった。その時の経験から、今回も同じように厳しい要求が出ることを予測はしていた」と打ち明ける。だが、実際に大和証券から求められたのはNECにとって予想以上に難しい内容だった。
この状況に対応するために、NECは大和証券との打ち合わせに工場の技術者を毎回出席させた。矢部プロジェクトディレクターは「正式にプロジェクトに参加したSEは30人程度だが、コストとして計上していない工場の技術者などが最低でも数十人はいる」と説明する。
その結果、最終的にNECは大和証券の希望通り仕様を変更、サーバーをSANから起動できるようにした。鈴木取締役は「以前から悩んでいたハードディスクの故障問題を解決できた」と満足げだ。
ほかにも「対応している動画ファイル形式が少ない」「シンクライアント・システムとWindowsのそれぞれにユーザー認証が必要で、起動時の操作が煩雑。1回の認証で済むようにしてほしい」など、大和証券が改善を要求し、NECが仕様の変更などで対応したケースは8つに及んだ(表1)。NECはそのすべてを、発売を予定していたシンクライアント端末「US100」の仕様に取り入れた。
表1●シンクライアント・システムについて大和証券が出した要望とNECの対応
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償却期間を7年半に設定
大和証券が求めたのは仕様変更だけではない。一般的にシンクライアント・システムの導入費用はパソコンよりも高い。鈴木取締役は「パソコンと比較してコストが高いのでは、シンクライアントの導入が進むわけがない」と、NECにコストの見直しを求めた。
ただ、根拠のない値下げ要求をしたわけではいない。「我々が経営会議を通すことができ、かつ、ベンダーの営業担当者が上司の了承を得ることができるよう、具体的な数字を盛り込んだ資料を作った」(鈴木取締役)。
ハードディスクを外すことにより、シンクライアント耐久性が増すことを考慮し、減価償却期間をパソコンの1.5倍に当たる7年半として計算。パソコンの実勢価格である「1台7万円」を5年で償却するケースと比べて、ほぼ同水準になるところまで価格を下げるよう求めたのである。
NECの中村淳史第三金融ソリューション事業部第二営業部セールスマネージャーは「技術的にも採算的にも厳しい要件だったが、ユーザーの声を盛り込めば製品の競争力を強化できる。大きなチャンスだと前向きに考えた」と振り返る。
2007年2月、大和証券の経営会議で本店にシンクライアント端末1200台を導入することが決定した。その後、大和証券グループ本社も4月、大和証券本店の検証結果などを参考に、シンクライアント端末300台の導入を決めた。