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チベット:仏教ナンバー3「中国の言い分は誤り」

毎日新聞と単独会見するカルマパ17世=インド北部ダラムサラ近郊で2008年5月9日、栗田慎一撮影
毎日新聞と単独会見するカルマパ17世=インド北部ダラムサラ近郊で2008年5月9日、栗田慎一撮影

 【ダラムサラ(インド北部)栗田慎一】チベット仏教ナンバー3で、次世代の実質的リーダーとして若い世代を中心に求心力を高めるカギュ派最高位の活仏カルマパ17世(22)が9日、亡命先のインド北部ダラムサラ近郊で毎日新聞と単独会見した。カルマパはチベット自治区での暴動・鎮圧について個人的な意見と断った上で「チベット人が暴力を拡大したという中国の言い分は誤りだ」と語り、中国側の主張を真っ向から否定。日本など国際社会に対し、「チベットの遺産と文化の保護に協力してほしい」と訴えた。

 カルマパは00年1月のインド亡命後、メディアとの接触を極力控えてきた。チベット暴動後もメディアとの会見は初めて。

 カルマパは亡命から8年以上が経過したチベット自治区の状況について、「インフラは発展したが、チベットの文化や宗教、民族を尊重するという点ではその逆だ」と語り、中国共産党の歴史観に基づく再教育などが続く現状を憂えた。

 また、チベット暴動についても「チベットでは強大な力を持つ治安当局が厳しい監視体制を敷いている。どうやって少数派のチベット人が暴力的な活動を起こせるというのか」と反論。その上で「私も(チベット仏教最高指導者)ダライ・ラマ14世と同様に暴力は認めない」と述べた。

 さらに自身の今後の役割については、「チベット人の若い世代だけでなく世界中の若い世代にチベット文化の保護を求める活動をしていきたい」と語った。

 【ことば】カルマパ17世 本名ドルジェ。チベット自治区東部チャムド県の遊牧民夫婦の間に生まれた3男6女の8番目。81年に亡命先の米国で入寂(死亡)した16世の転生霊童(生まれ変わり)として7歳の時に見いだされ、92年、ダライ・ラマ14世と中国側双方から承認された。最高位を務めるカギュ派はチベット仏教4大宗派の中で最古の歴史を持つ。

 ◇国際社会へいらだち 

 【ダラムサラ(インド北部)栗田慎一】チベット仏教ナンバー3のカルマパ17世(22)が9日、「チベット人が暴力を拡大した」との中国の主張を否定した背景には、五輪開催と高度成長を続ける中国に強硬姿勢を取れない国際社会への強いいらだちがある。ナンバー2のパンチェン・ラマ11世が中国側の軟禁状態にある中、チベット人の実質的な次世代リーダーとして注目を集めるカルマパの発言は、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世側と中国側との今後の協議にも影響を与えそうだ。

 中国広東省深センで4日にあったダライ・ラマ代理人と中国側との非公式協議で、中国側は本格対話を再開する条件として、「チベットでの分裂、暴力活動の停止」などを求めた。しかし、カルマパの発言は、この条件の前提となる事実関係を否定したことになる。

 3月の暴動後、ダラムサラでは連日のように若い世代を中心に中国への激しい抗議デモが続いた。北京五輪の聖火リレーでは相次ぐ妨害行動も起きた。背景には、チベットの置かれた状況が一向に改善しない「現実」へのいらだちがあった。

 ダライ・ラマは中国に対して「独立」ではなく、「高度な自治」を求めている。しかし、72歳のダライ・ラマを含む亡命政府幹部のほとんどがチベットを離れて50年近くも経過する中、00年1月にネパールを経由してインドにたどり着いたカルマパは、最近のチベットの現状を知る指導者だ。これまでの中国側との交渉の結果を、皮膚感覚として痛感している。

 カルマパはダライ・ラマと「頻繁に会っている」と言い、ダライ・ラマが、中国に強硬姿勢を取れない国際社会に対し「深い憂慮を抱いている」とも明かした。亡命社会は、チベットを知らない2世や3世といった若い世代が中心的な役割を担う時代に突入している。カルマパの発言は、こうした世代が持つ中国への不信感を示す一方で、ダライ・ラマの苦悩も代弁したものと言える。

毎日新聞 2008年5月10日 2時30分(最終更新 5月10日 2時30分)

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