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信頼の立て直し

2008年06月05日

 米国の金融市場の危機的な状況はおさまったと言うが実態はどうなのだろうか。バーナンキFRB議長が懸念していたサブプライムローンなどの証券化商品の時価評価問題は、新しい会計基準の設定によって愁眉(しゅうび)が開かれた。流動性が無くなり時価の算定が困難になった資産を市場性の高い資産とは別扱い(レベル3)として、自社基準などによる評価を認め、その代わりにその金額は公表するというやり方である。これにより時価主義の徹底と自己資本比率規制の連動によって生じる極端な信用収縮の危機は避けられた。しかし、3月末時点でこのように分類されたリスク資産は米大手銀行3行で約30兆円にも上る。その実態を背景にした信用収縮は今後もなお広がることだろう。

 このような大問題の原因へのメスの一つとしてコネティカット州の司法当局は格付けの老舗(しにせ)ムーディーズ社に対して、コンピューターのシステム障害で、本来は低いはずのデリバティブ(金融派生商品)をAAAと格付けしていた件で調査を始めたという。本当だとすれば格付けの信頼性という市場機能の要での失態である。また原油価格の暴騰はファンドによる投機が加速しているのだが、市場の行き過ぎを抑制する意志もメカニズムもない状態は黙視できない。大反落のリスクもあり、本当はファンドに対する規制も含め新たな国際協調が必要な緊迫した状態ではないか。

 これほどの不具合は欲得によって信頼の絆(きずな)を断ち切る流れが、閾(いき)を越えて次なる秩序を模索するカオスの過程に入ったしるしとも見える。経済も企業経営もあらゆる面で信頼の立て直しをしてゆくことこそが、激動の時代への対応の柱になるのではないか。(瞬)

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