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社説:国籍法は違憲 価値観の見直し迫る最高裁

 家族観や結婚観の変化を加速する契機となるに違いない。結婚していない日本人の父とフィリピン人の母から生まれた子どもの国籍をめぐる訴訟で、最高裁大法廷が下した判決だ。

 嫡出子なら国籍を得るのに、非嫡出子が出生後に父から認知されても国籍を得ることができないのは、合理的な理由のない差別だと断じた。最高裁にとって戦後8件目の法規定への違憲判決だ。

 事情を知る市民には得心のいく判断だ。不合理極まる差別が生じていたからだ。たとえば原告の1人、マサミ・タピルちゃんは父から出生後に認知されたため日本国籍を取得できず、母と同じフィリピン国籍だった。同じ父母を持つ妹は胎児の時に認知を受けたため、日本国籍を得ている。母子3人は日本で一緒に暮らしているのに、認知時期の違いで外国人扱いされた。さまざまな不利益を被り、母子で強制送還されるケースまであるから、ゆるがせにできぬ問題だった。

 注目すべきは、最高裁が時代の変化を敏感に読み取ったことだ。争点の国籍法3条1項について、84年の新設当時は合理性があったとした上で、その後は家族生活や親子関係に関する意識が変化し、実態が多様化した、と強調。父母が結婚しているからわが国との密接な結びつきが認められるとする考えは、今日では必ずしも実態に適合しない、との結論を導いた。

 判決はまた、諸外国では非嫡出子への法的な差別を解消させ、自国民との父子関係があれば国籍を取得させるのが潮流、と指摘。子どもの権利条約が出生による差別禁止を規定していることにも言及した。

 要するに、くだんの条項は時代遅れで、国際化が進む今、通用しないというのである。

 判決の影響は大きい。国会が法改正を迫られるだけでない。社会より一歩遅れるとやゆされる司法府が、家族や親子などに関する意識が変化した、と指摘した事実を、市民一人一人が重く受け止めねばならない。

 届け出婚に執着する考え方は、結婚形態の多様化を容認する国際世論に、転換を迫られるかもしれない。少子化対策では、自由な結婚観が重要ともいわれている。子どもの人権を優先すれば、嫡出子と非嫡出子との差別は許されない。相続上の差を認める民法の規定も見直しの対象となる。

 だが、重婚にも似た内縁関係まで是とすることには異論もある。今回の判決で5人の裁判官が述べた反対意見も、重視されねばならない。新しいコンセンサスを練り上げるため、慎重な論議が必要だ。

 国内外で日本人男性と外国人女性との間に生まれ、認知さえ受けられずにいる子どもたちの存在も忘れてはならない。男性側の不誠実さが悲劇を生むことがないよう、身を律する姿勢も求められている。

毎日新聞 2008年6月5日 東京朝刊

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