現在位置:asahi.com>社説 社説2008年06月05日(木曜日)付 オバマ候補―米国はどこまで変わるか初の女性か、アフリカ系か。もつれていた米大統領選挙の民主党候補者選びが、ようやく決着した。ケニア人を父親に、米国人の白人を母親に持つオバマ上院議員が11月4日の本選挙で、共和党のマケイン上院議員に挑む。 予備選の序盤からオバマ氏が巻き起こした旋風に、読者の多くは半信半疑だったのではないか。「米国がそこまで変われるのだろうか」。黒人に対する人種偏見を本当に乗り越えられるのか、という疑問だ。 米国史をひもとけば、奴隷制が廃止されたのは19世紀の南北戦争の結果だった。だが、過酷な差別は続き、南部では黒人の投票権も事実上、制限されていた。参政権を含め、一切の差別が禁止されたのは65年になってからのことだった。 それから40年余り。ついにアフリカ系が大統領の座に挑戦する時代になった。米国社会がそれだけ変わってきたことは間違いないだろう。 オバマ氏が脚光を浴びたのは04年、党大会で「黒人の米国も、白人の米国もない。あるのはアメリカ合衆国だけだ」と結束を呼びかけた演説だった。 01年の同時多発テロからイラク戦争の泥沼にはまっていく過程で、ブッシュ時代の米国社会にはさまざまな亀裂や対立が生まれ、深まった。戦争の是非はもちろん、伝統的な価値観や宗教、貧富などをめぐるものだ。 オバマ氏が発したメッセージは、米社会の融和であり、旧来の政治からの「変化」だった。それが、黒人候補という不利に働いておかしくない要素を抱えながら、若者や高学歴の白人の熱狂的な支持を集めた理由だろう。 途中から、その勢いにかげりも出た。オバマ氏が通っていたシカゴの黒人教会の牧師が、人種間の対立をあおる過激な説教をしたことが明るみに出て、イメージを傷つけた。 オバマ氏は、差別を受けてきた黒人たちの怨念(おんねん)とは距離を置きつつ、人種の融和を訴えてきた。被害者の立場を前面に出せば、分裂を強調することになりかねないと見たからだろう。 終盤での支持のかげりは、黒人を候補者とすることに米国社会がたじろいだことを物語るようにも見える。 それでも民主党員はオバマ氏を選んだ。ブッシュ大統領の支持率は史上最低水準に低迷し、不満は米国社会に渦巻いている。人種のハンディがあっても、「経験」を掲げたヒラリー・クリントン上院議員に競り勝てたのは、米国を変えたいという人々の思いがそれだけ強かったということだろう。 イラクからの撤兵や経済の立て直しなど、マケイン候補との論戦は始まっている。人種問題を含め、米社会全体がどう変わり、変わっていくのか。今年の大統領選挙はいよいよ目が離せなくなった。 婚外子の国籍―子どもを救った違憲判断日本人の証しである日本国籍。それを得るには、父親と母親が結婚しているかどうかにかかわらず、生まれたときに親のいずれかが日本人であればいい。国籍法はこう定めている。 結婚していない外国人の母親から生まれた場合、生まれるまでに日本人の父親が認知していれば問題はない。 問題は、生まれたあとに日本人の父親が認知した場合だ。国籍法では、この場合には両親が結婚していなければ、子どもに国籍を認めない。 フィリピン人の母親から生まれ、そのあと日本人の父親から認知されたが、両親は結婚していない。そうした子どもたち10人が、日本国籍の確認を求めて提訴していた。 最高裁が言い渡した判決は、出生後に認知された子だけに両親の結婚を国籍取得の条件とした国籍法の規定は違憲であり、子どもたちに国籍を与えるというものだった。 従来は親が結婚していることが、その子と国家との密接な結びつきを示す根拠と考えられていた。しかし、家族や親子についての意識も実態も変わった。多くの国で、こうした出生による差別をなくすようにもなった。 判決はこのように理由を述べた。極めて妥当な判断である。 原告の子どもたちは日本で生まれ育ち、日本の学校に通っている。日本人として暮らしているのに、日本国籍がないと、社会生活で様々な不利益がある。原告の一人、マサミさんは(10)は警察官になるのが夢だが、それもかなわない。こうした差別と権利の侵害を放置しておくわけにはいかない。 外国人が母親の場合、生まれる子の1割は婚外子だ。様々な事情があるにしても、父親である日本人の姿勢が批判されるべき場合もあるだろう。 だが、子どもに責任はない。母親の胎内にいるときに父親が認知したり、生まれたあとに両親が結婚したりすればいい、といわれても、子どもにはどうすることもできない。外国人の母親から生まれ、日本国籍を取れない子どもは数万人いるとの推計もある。 最高裁判決で注目されるのは、「差別を受けている人を救うため、法律の解釈によって違憲状態を解消することができる」との判断を示したことだ。国籍法の中で、結婚を条件としている違憲部分を除いて条文を読み直すという方法をとった。 この方法については、今回の判決でも「違憲状態の解消は立法によるべきだ」という反対意見がついた。 だが、国籍法は違憲性がこれまでも指摘されてきたのに、国会や政府は法改正を怠ってきた。法改正を待っていては、救済がさらに遅れる。 違憲立法審査権を絵に描いた餅にしないために工夫をこらした最高裁の姿勢を支持したい。 PR情報 |
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