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分子の目だけじゃ、やっぱダメ

20070328_rockyなんの事かと言うと、がん治療。この分野では分子標的薬なるカテゴリーがあり、それなりの成果をえているんだけど、やっぱり100%じゃない。理論的には100%の筈なのに、何でだろ?っていわれてた。

薬剤師なら、PK , PD で説明しようとするだろう。でも、今までのがんの病理学的理解が間違っていた(これは言い過ぎだけど、この方が分かり易いから、こう表現するけど)としたら、やっぱり、分子標的薬の効果が100%じゃない事を説明できる。

この道の専門家からすれば、がん関連の研究は、ステップ・バイ・ステップで進歩しているって感じているのだろうけど、私なんぞにとっては、ここ1~2年で、大きな変化を感じてしまう。


創刊号から購読している BTJ 3月号のがん幹細胞の特集では、この幹細胞自体を見つけるための“分子の目”、ってゆーか表面抗原のスクリーニングの他に、このがんの“場”の見方からがん幹細胞を見る目を紹介している。

はっきり言って、私には、、、


---目から鱗が落ちた---

って内容だ。

国立がんセンター東病院臨床開発センター臨床腫瘍病理の落合敦志部長へのインタヴュー記事がそれだ。

『がんは染色体に変異が入った細胞の均一に集団ではなく、血管や間質といった周辺環境ががん細胞を支える複雑な組織である事が明らかになり、がん研究のパラダイムシフトが急速に進んでいる。』と、言葉にすれば簡単なんだけど、これの意味する所は、、、深い。

今までの私達(私だけ?)の“がん”のイメージは、その塊(=癌)はすべてがん細胞から出来ていて、その中に血管など通っているってものだったと思う。

しかし、本当は、がん組織に占める“がん細胞”の割合は3割程度なのだと。スキルス胃癌に至っては、たかだか10%にも満たないのだと。

あとは何があるのかと言うと、いわゆる“間質”なのだそうだ。これ、病気じゃ無い臓器なら、当たり前の構造だけど、まさか・・・・がんまでこうだったとは・・・・って目から鱗が落ちたわけだ。

で、抗がん剤を投与するとがん組織がなくなるのだけど、実は、それは、主要な構成成分である間質細胞がなくなるって事だったのだ。それだけ間質を構成する細胞は流動的であると。

がん組織にはがん細胞以外にも重要な細胞があるってことなのだ。


これが、がん幹細胞とどう繋がるの??


いわゆる幹細胞の存在場所は“ニッチ”と呼ばれる特別な場所だ。ここでは、幹細胞は“冬眠”している。何故冬眠するかと言うと、のべつ幕なし“分裂”を繰り返していると、その内、遺伝子に異常が蓄積し、がん細胞になっちゃうからだ。だから、必要な時だけ、必要な分を補充して、あとは冬眠している。

そして、その幹細胞の行動スケジュールを監視(管理)しているのが“ニッチ”を構成している細胞達だ。


このような正常組織と同様に、がん組織は、その“場”にがん幹細胞の為の“ニッチ”を作っているのだ。


じゃ、その“間質細胞”って何だよ?何処から集まってくるんだよ?

それは、骨髄由来の線維芽細胞や骨髄細胞などだ(流動的なわけだよ)。がん細胞がいろんな因子を放出し、自分の所に集まってくるようにしている。動物で実験すると面白い事に、同じがん細胞を植えても、植える場所によって、すなわち、皮膚、肝臓、肺など場所を変えると、誘導される“間質”が異なり、がん細胞の種類を変えると、また変わる。すなわち、、、、

がん細胞は、存在していくために、自分で自分の環境を作るらしい。(がん幹細胞は、冬眠スケジュールを監視してくれる間質を教育していく。がん組織にある線維芽細胞自体は正常組織のそれと違いはないが、性質は異なっている)

例えば、皮膚がきちんと形成されるためには上皮細胞があるだけじゃ駄目で、間質細胞としての線維芽細胞がそこにやってきて、コラーゲンを収縮したりして、上皮細胞に適当な“張力(テンション)”を与える必要がある。これで、ちゃんとした“皮膚”になるのだそうだ。


“がん”が“がん”に成り得るためにも言える事じゃないのか?!


転移に関しても、先ず、転移する先に、がん幹細胞の住む所、すなわち“ニッチ”が形成されて(元の場所に集まってきた骨髄細胞から出発するか、骨髄から直接出発するか、、どちらにしても飛び易い)、それから“がん細胞”が飛んでいくというスキームも示されている。

この考えが肯けるのは、臓器によって形成される“間質”が異なるなら、がんによって転移先が特定の臓器だけって現象がある事が良く理解できるからだ。

がんは成長するために“成長因子”を必要としている。(ちなみに、この受容体が分子標的薬のターゲットでもある)そして、臓器によって“成長因子”は違いがある。量や不活性化されている因子を活性化する機構、さらに成長するために“足場”も重要だし。

例えば肝臓で産生され不活性型の状態で存在する IGF-2 は 必要な時にプロテアーゼで分解されて活性型になる。MMP は大腸癌で分泌されるけど、大腸癌が肝臓に転移する時には、この MMP が IGF-2 を分解する。すなわち、大腸がん細胞はこれを利用する。

こんな事からも、がんの“生活環境”は重要なファクターだと言えるわけだ。


だから、細胞ひとつを見て“がん”だと言うのと、病気としての“がん”は色んな意味で違うと言える。in vivo と in vitro の違いって言ってしまえば簡単なんだけど・・・。

異常が起きた細胞が出来ても、それを“育てる環境”が揃わないと、病気としての“がん”にはならないのではないか?逆に言えば、周りの環境を変えれば、がん細胞を死に導けるのではないか?


そんなわけで、“分子の目”だけをもってしてもがんの核心には迫りきれず、別な視点からの理解と、戦略が必要で、分子標的薬だけでは不十分なのも、うなづける訳だ。


小さい方へ、小さい方へと進んでいた医学・生物学の中で、久しぶりに“視点”を改めさせてくれる(目から鱗が落ちた)ものに触れたので、自分の頭の中を整理するためにも書いてしまった訳だが、やっぱり、、、、、

ここまで、システマチックだと、がんは老化の表現型の一つだと・・・・・、思わざるをえないんたよねぇ、これが!!部分的には制御できても、全ては抑制できない・・・んじゃないかなぁ!

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