みそ汁に入れるネギを裏の畑にちょっと採りに行くのが楽しい。海から昇る朝日を眺める日々が極楽。けばけばしい色彩がない風景が心地いい。自然に人とあいさつを交わすことがうれしい。
企画「ふるさとよ」の取材で、都会から笠岡諸島に移り住んだ人々に会った。思い立って下見もしないで移住した人もいれば、何年も各地を探し、たどり着いた人もいる。それぞれが、喜々として島の魅力を語ってくれた。それは田舎ではごく当たり前のことだったりするのだが、熱い語りを聞いているうちに、当たり前が新鮮な輝きを放ち始めるから不思議だ。
都市と地方の格差を背景に大都市への人口集中が進む一方、積極的に田舎暮らしを選択する都会人が増えてきた。笠岡諸島では、二〇〇四年から島民と行政が連携してIターンの受け入れを始め、現在、定住者は約四十人に上る。かといって島の人口減少に歯止めがかかったわけではないが、島民と移住者の出会いは、新しい島づくりの可能性に満ちている。
田舎暮らしの情報を提供するNPO法人ふるさと回帰支援センター(東京)を訪れる都会人の七割は「どこかいい田舎はありませんか」とやって来るそうだ。都会に地方の情報が不足しているために、田舎暮らしを望んでも情報を選び取れない人が多いという。
都会を“限界集落”と感じる人々の、地方への回帰は始まっている。自治体間の人口の争奪戦も過熱してきた。ふるさとは今、十年、二十年先を見据えた地域づくりとともにその発信力を問われている。 (編集委員・清水玲子)