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エコナビ2008:食糧サミット開会 飢餓救済「行動の時」

 ◇天井知らずの価格高騰、FAO事務局長が憂慮

 【ローマ藤好陽太郎、藤原章生】食糧サミットの開幕演説で、主催する国連食糧農業機関(FAO)のディウフ事務局長は先進国に対し強い言葉で語りかけた。「ある国は年間1000億ドル(約10兆円)もの食糧を浪費し、武器取引は1兆2000億ドルに上る。飢餓に苦しむ人を救うための300億ドルがないなどと言えるのか」。世界の人口は50年までに90億人に増える見通しで、食糧需要の増加は避けられない。高まりつつある危機の中での警告に、サミットはどう答えようとしているのか。

 サミット開催の背景には、昨年から30カ国もの途上国で食糧を求める暴動が起きたことがある。06年にオーストラリアなどの穀物輸出国が干ばつに見舞われ、生産への不安に火がついたことをきっかけに穀物価格が上昇した。原油高騰による肥料や輸送費の増加が拍車をかける。同時に、人口増と中国など新興国の中間層の台頭で食肉需要が急拡大。家畜を育てるため、大量の穀物を消費するようになった。穀物生産国の輸出禁止や制限措置の影響も大きい。

 また米国では、10年前にはトウモロコシ生産高の5%にすぎなかったバイオ燃料向けの消費量が3分の1にまで急増し、「価格を高騰させた」(世界銀行)という。

 ◆途上国に痛み

 価格高騰の最大の被害者は途上国だ。貧困層は所得の5~7割を穀物を中心とした食費に取られる。

 現在の穀物価格は1年前に比べ6割前後も高い。FAOは17年までの10年間で「牛肉・豚肉が20%、小麦やトウモロコシが40~60%、植物油は80%、それぞれ上昇」と予想する。しかし、こうした見通しは、干ばつや気候変動、水不足などを考慮に入れておらず、上振れする可能性は否定できない。

 飢餓や栄養失調に追い詰められているのは現在8億6200万人とされるが、「このままでは、25年までにさらに6億人が加わる」(英NGOオックスファム)。ディウフ事務局長は「話し合いはもう十分だ。今は行動する時だ」と呼びかけた。

 ◆燃料巡り対立

 食糧危機を加速させていると批判が高まるバイオ燃料をめぐり、推進派の米国とブラジルが食糧サミット開幕前から現地入りし「食糧問題を起こしていない」とアピールした。

 「米農務省の分析では、バイオ燃料は穀物価格高騰の一要因に過ぎない。昨年の40%に及ぶ価格高騰に与えたバイオ燃料の影響は、そのうち2~3%程度。これは通常の物価上昇率程度のものだ」。米国のシェーファー農務長官は2日、会見でこう言い切った。食糧確保のためのバイオ燃料の生産停止を考える気はないという、米国の宣言と言える。

 だが、世界銀行は報告書で「04年から07年、トウモロコシの増産分が米国のバイオ燃料生産に充てられ、在庫の枯渇が価格を高騰させた」と「米国主犯説」とも言える見方を開陳。シェーファー氏の主張する「2~3%のインパクト」とはかけ離れている。サミット参加国からは「米国の主張には、無理がある」との声も漏れる。

 一方、ブラジルのルラ大統領は1日の会見で「サトウキビでつくるバイオ燃料は、砂糖精製の副産物を使うため食糧高騰をもたらさない」と言明。トウモロコシから生産する米国とは一線を画する姿勢を鮮明にした。

 ◇首相発言に反発か、首脳会談が中止に--ブラジル

 また、3日午後(日本時間3日夜)に予定されていたルラ大統領と福田康夫首相の首脳会談が直前に中止となった。食糧サミットの演説で、食糧を使わないバイオ燃料への転換を提言した福田首相にブラジル側が反発した可能性もある。

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 ■ことば

 ◇バイオ燃料

 生物体(バイオマス)の持つエネルギーを利用したアルコール系燃料。二酸化炭素の総排出量が増えないため、石油の代替資源として注目されている。ブラジルがサトウキビ、米国がトウモロコシからの生産で先駆けとなり、00年から07年にかけ全体の生産量が3倍に急増。今後10年でさらに倍増するとみられており、食糧価格の高騰を引き起こしているとの批判も出ている。日本は07年、バイオエタノールを含んだガソリンの試験販売を始めた。

毎日新聞 2008年6月4日 東京朝刊

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