深町秋生の新人日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2008-05-24 ダークサイド・オブ・アメリカ 「ランボー 最後の戦場」 このエントリーを含むブックマーク


卑劣軍事政権の犬ども死ね!!


バリバリ、ドーン!! バラバラ! ゴキ! グチャ! ブオーン!! ドカーン


という「ドキ! 切株だらけの殺戮大会」ですばらしかった。「ランボー 最後の戦場」の話。「ザ・暴力」という巨大なアイスクリームに、ほんのちょっと箸休めのウエハース程度にシンプル物語がのっかっているだけで、とにかく最初から最後までゴアゴア描写の電車道である。


シンプルとはいえとにかく内臓が漏れ、血が大量にバシャバシャ流れるアルト暴力世界と善良なボランティアらの価値観を織り交ぜることで実存的な問いを観客に発し、戦争文学ともいうべき高尚ささえ感じさせてくれた。スタさんの老獪さを感じさせる一本となった。ミャンマー軍の非道な虐殺で民衆の手足はちぎれ、面白半分に蜂の巣にされ、子供でさえもグサっと刺し殺されていたが、逆にそれをやっつけるランボーにしても軍隊を同様にぐちゃぐちゃに吹き飛ばしたり、引きちぎったりして「爽快な暴力」として描こうとしていないので、かなり居心地の悪さを観客に与える。ちょっとちゃかついた映像に難があったけれど。


しかしS・スタローンほどアメリカという国を体現したスターはいないだろう。


もう一方の代表作である「ロッキー」はアメリカの「陽」を描いていた。これはスタさんもインタビューで言っていた話なんだけれど。さえないチンピラや最下層の移民であっても、死ぬ気でチャレンジすればアメリカンドリームを掴むことができるんだと高らかに謳っていた。一方「ランボー」はアメリカの「陰」が描かれていた。そもそもランボーベトナム戦争によって没落した白人たちの嘆きや本音を拾い上げた物語でもある。黒人女性たちの地位が向上していくなかで、タフを気取って戦場に赴いた白人らはベトコンにえらい目に遭わされたうえに、帰国したら「ベイビーキラー」とか「負け犬」呼ばわり。ランボー田舎町で暴れることで、落ちぶれる白人層の嫉妬や怒りを代弁させていた。「ロッキー」と「ランボー」はアメリカという親から生まれた表裏一対の兄弟みたいなものかもしれない。


80年代はどちらも愛国反共ヒーローとなったが、「ランボー」はいくらボリシェビキやベトコンを葬ったところで、救われはしない。あまりに暴れ方がひどいので、みんなドン引きロッキーと違って誰もそのファイトを評価してくれるものはいない。いるとすればトラウトマン大佐ぐらいか。残されるのは死体の山と孤独と残骸だけである。


世界アメリカほど嫌われている国はない。当たり前といえば当たり前の話だ。圧倒的な暴力装置を背景に、「民主主義になれ、この野郎」と手前勝手正義押しつける。そのくせ自分に都合のいい国はたとえ独裁であろうと軍事政権だろうとひどく甘い。昨今はランボーと同じように暴れることぐらいしか取り柄がないというか、戦争経済活性化させるという最悪の道を歩んでいる。


しかしどんなにひどくて横暴でも、そのアメリカ暴力によって安全に暮らせる人間もいるのも事実ではある。アメリカ本国はもちろん、日本韓国、西側諸国などなど。圧倒的な暴力に守られながら経済活動にいそしみ、享楽にふけり、そしてときには崇高なボランティアなんかもする。


けれどアメリカ尊敬されることはない。利用されることはあっても。アメリカ第二次大戦後もひたすら暴れてきた。その恩恵にあずかった国もたくさんあるが、平和になれば「もうお前らは用済みだ。国に帰れ戦争好きの白人ども」と手のひらを返す。日本韓国は一番わかりやすい例かもしれない。80年代の日本はそのうえアメリカ企業を買収し、家電製品や車を売りまくってやりたい放題だった。(日本日本で当然言い分があるんだが)


ランボー3」ではソ連を追い出すためにゲリラと共闘した。ゲリラソ連を追い出してアフガン政権を奪取したが、21世紀になってお礼参りとばかりに9・11を起こした。アメリカがとっ捕まえたフセインも、レーガンから大量に武器をもらってイラクを軍事大国にしてもらったが、いろいろあってアメリカの手に噛みついた。


暴力に生きる者は必要とされても、仲間にはしてもらえない。敬意さえ払われないどころか、助けてもらった恩を忘れて噛みつかれる場合さえある。軍隊警察極道は、社会がある以上必要不可欠なものだけれど、文明が高度になればなるほど嫌われる存在である。非常事態のときだけ頼みにされる人間兵器ランボーは、そのままマッチョ国家アメリカアイコンでもある。


ロッキーアメリカの建前を描いたファンタジーだった。一方、ランボーは「平和に過ごして好き勝手言っていられるのは、おれたちのおかげじゃねえのか。ちょっとぐらい敬意払ってくれてもいいじゃないですか」という戦士たちのリアル悲鳴であり、現代アメリカ(とくに反リベラル層)の、腹を割った呪詛に近い本音の物語なのだ。



またアンテナに反映されねえ時期が。クソ。