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社説:どうした警察 熱意と迅速さで信頼の回復を

 警察の動きが歯がゆく映る事件が続く。

 埼玉県川越市の立てこもり事件は、約9時間後に容疑者が拳銃で自殺を図ったことを機に解決した。この間、周辺の住民は公民館などに避難し、小中高校は休校に追い込まれた。住宅街での拳銃乱射に、住民らはさぞかし肝を冷やしたことだろう。

 合点がいかないのは、武装した警官隊が容疑者を遠巻きにし、持久戦を続けたことだ。人質がいたわけではない。ましてや相手は拳銃強盗という凶悪事件の容疑者でもある。平素から監禁や立てこもり事件に備えて、訓練を積んでいるはずなのに、もっと早い解決を図れなかったものか。

 リスクを可能な限り回避するのは当然だが、可及的速やかに事態を収拾し、住民を安心させることも、警察の大事な使命だ。今回は、通勤通学時間帯の前に決着させるべきだったろう。昨年の東京・町田と愛知・長久手の立てこもり事件でも解決に手間取り、被害を拡大させたことが問題化したが、今回の捜査指揮にも疑問の余地がある。

 東京都江東区のマンションで女性会社員が行方不明になり、遺体の一部が見つかった事件でも、市民には納得できぬことが少なくない。防犯カメラの映像からマンション外に連れ出された形跡がないのなら、なぜ徹底してマンション内を捜さなかったのか。容疑者を住居侵入容疑で逮捕するまで1カ月余を要したのも、いかにも遅い。

 容疑者は取り調べに、被害者を自室に監禁した後、警察官が聞き込みに来たので発覚を恐れて殺した、と供述したと伝えられている。事実とすれば、警察には被害者を救出するチャンスがあったことになる。任意の捜索に限界があるとしても、気の利いた捜査員ならば言葉巧みに容疑者の部屋に上がり込み、内部を点検できたのではないか。

 遺体の一部をマンションから持ち出したという供述にも、十分な証拠は見つかっていない。だが、警戒中の警察官が容疑者を職務質問し、持ち物を検査していなかったとすれば、手抜かりと言わざるを得ない。

 振り返れば、9年前の埼玉・桶川の女子大生殺害事件の前後から、警察の消極性やしゃくし定規な対応ぶりが目立ち出した。実務経験に乏しく、保身に走る幹部への批判の声も高まった。遺憾ながら、捜査員らの熱意が阻喪しているかのような印象さえ受ける。江東区の事件でも、被害女性を一刻も早く救出したい、と踏み込んだ捜査が行われていれば、異なった展開になったのではないか。

 いわゆる体感治安が悪化した一因は、警察への信頼が揺らぎ出したことにある。警察当局は捜査のあり方はもちろん昇任制度なども見直し、市民にとっての最善策を常に考える体制を構築しなければならない。

毎日新聞 2008年6月4日 東京朝刊

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