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2008年6月4日

◎ふるさと納税 使い道のメニューがほしい

 「ふるさと納税」が始まって一カ月になった。石川、富山両県では県をはじめとして各 自治体が各地の県人会などを通して郷土出身者に呼び掛けたり、条例制定(改定も含む)の準備を急いでいる段階とあって、使い道を具体的に示すところはまだ少ないようだ。が、納税者の身になった、丁寧で分かりやすい使い道のメニューがほしいものだ。

 富山市の例が、半ば迷い気味ともいえる自治体側の様子を大変分かりやすく教えてくれ るように思われる。同市では使途を設けずに寄付を積み立てる受け皿として「ふるさとぬくもり基金」を創設する方針であり、市議会六月定例会に条例案を提出して制定をはかることにしているが、申し込みなどの様子をみた上で使い道を考える構えだ。

 金沢市にしても、インターネットのホームページで制度の案内や手続きを紹介している が、芸術文化の振興、将来を担う人材の育成、市民と協働して進めるまちづくりなどの施策に使わせてもらうなどと抽象的である。全部調べたわけではないが、どちらかというと、金沢市のような自治体が大半ではないのか。

 活用の道として石川県は金沢城復元整備を、あるいは高岡市が開町四百年記念事業など を挙げている。せめてこれくらいの具体的な呼び掛けをしたいものである。

 生まれ故郷や応援したい地方自治体に寄付すると、住民税などが安くなるのが「ふるさ と納税」の制度である。が、控除の上限が住民税の約一割とあって、これでは財政的に大きなプラスを期待できないとか、目くらましではないのかなどといった受け止め方が自治体側にあるようだ。

 それも分からなくはないが、使途を具体的に示さない働きかけは愛郷心に漠然と訴える ことになって効果が薄れて、威勢のよい反応が期待できないのではなかろうか。

 申し込みが、ぽつぽつという現状はそうしたことにも原因があるのではないか。呼び掛 けられる側の立場をも考慮して、これこれに使います、と呼び掛けるように知恵を出さねばなるまい。

◎スピード水着 対応が遅れた日本水連

 北京五輪が近づくなか、英スピード社の新作水着「レーザー・レーサー(LR)」に対 抗するため、日本水泳連盟は先月初旬、急きょ国内メーカー三社に改良を要請し、各社とも一カ月もかけずに新型水着を作り上げたが、代表選手から要望が出れば、三社以外の水着使用を容認する事態に追い込まれた。海外情報に鈍感になったことなどが背景にあると指摘されている。

 LRは今年二月に世界同時に発表され、この水着を試した選手によって五十メートル当 たり一秒程度タイムを短縮できることが分かった。日本水連は仰天して、契約している三社に改良を依頼したわけだが、どたばたの背景には、競い合いを弱めかねない十二年という長期にわたる三社との契約や、国際情報の入手・分析に手抜かりがあったといわれているのだ。

 LRは米航空宇宙局(NASA)などの協力を得て開発されたものであり、選手が受動 する水の抵抗を従来の水着より10%減らすことに成功したといわれる。

 ここでも日本は遅れを取ったかとの思いを抱かされるのだが、国内では三社以外の小さ な化学会社が、水の抵抗を減らすには水着の表面を氷に近づけることで可能になるとして、そのような素材を作ることに成功し、三社のうち一社が部分的にその素材を改良水着に採用したという。名もない企業の努力に救われる思いだ。

 日本水連会長、日本オリンピック委員会会長を歴任した古橋広之進さんの回想によると 、一九六四(昭和三十九)年の東京五輪で飛び込みを含めた水泳二十二種目中、実に十六種目で優勝した米国の群を抜いた強さに驚き、どこが違うのか、その原因を研究し、米国では子どものころから泳ぎ方を教えるスイミングクラブ(SC)があることに気がつき、日本に普及させたという。

 日本がまだ占領下にあったころ、仲間の選手らと全米選手権に招待されて参加し、四百 メートル自由形など三種目で世界新を出したのが古橋さんだ。古橋さんらの研究熱心が失われたのでないことを願うのである。


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