筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)は、主に中高年期(50歳以降)から、体の一部分の筋の萎縮、筋力低下が始まります。平均2―3年の間に徐々に全身に拡大、進行し、四肢・体幹筋の麻痺(まひ)、構音・嚥下(えんげ)(話したり、物を飲み込んだりする)障害、呼吸(筋力)障害などが現れる疾患です。
伝説的野球選手のルー・ゲーリック氏がこの病気で亡くなったことや、イギリスの天文物理学者ホーキング博士が現在闘病中の病気としても知られています。
医師ならば、たとえ専門科ではなくとも名前だけは知っている代表的な神経系の難病です。麻痺の原因は脳や脊髄(せきずい)の神経のうち、運動ニューロンが選択的に減っていくことですが、なぜそのようなことが起こるのかは、一部の遺伝性・家族性(ALS全体の約5―10%)の例を除き、まだ解明されていません。病状の進行を抑えられる治療法もまだ研究段階です。従来あまり注目されていませんでしたが、身体各部の麻痺以外に、10―20%の患者さんで、特殊な認知症の存在が知られています。
診断は、筋電図などに習熟した神経内科医以外には困難です。県内では決して多くはありませんが、神経内科を掲げる施設にご相談ください。
患者さんの発生は、人口10万人当たり年間1人程度です。現在、全国では7000人超の患者、沖縄県内では80―100人の患者がいると推定されます。
沖縄県の人口は日本の約1%ですから、全国平均より多い印象です。しかも、約10年で倍増しているのです。
第一の理由は、近年、沖縄では生死を分ける呼吸不全で、積極的に人工呼吸器を装着する患者の割合が増えているためと思われます。当院では80%超です。全国的に20%程度の装着率といわれているので、その差は歴然です。
これについて、「本県の医療・福祉環境が優れているから」と胸を張れたらいいのですが、私自身は、「命(ぬち)どぅ宝」に代表される死生観や、「なんくるないさー」という本質的な楽天性が、装着率を高めている理由ではないかという気がします。
人工呼吸器や嚥下障害に対する経管栄養法の利用、肺炎などの合併症対策がうまくいけば、発症後、10年以上の生存もまれではなくなっています。しかし、現在の医療制度では、そうした状態の患者が病院で長期の療養入院をすることは、年々困難になっています。そのため、大変な介護力が必要な状態で、在宅療養が求められるようになっています。全県的な行政、各種医療機関や介護施設の連携がますます必要です。
近々、患者団体である日本ALS協会の沖縄支部の設立もあるようです。生活習慣病のように決して多い病気ではありませんが、どんなに節制した生活をしていても、誰にでも起こりうる疾患といえます。簡単な説明となりましたが、広く県民に「自分や家族にも起こりうる病気」として、少しでもご理解いただければと思います。
(末原雅人、国立病院機構沖縄病院)
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