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深層・真相:熊本産院の存廃問題 社会的役割どう評価 /熊本

 ◇2年ごしの市長判断に注目

 存廃に揺れる熊本市立熊本産院(同市本山)の07年度決算が、13日開会の市議会に報告される。幸山政史市長は「(存廃は)決算を一つの目安にしながら総合的に判断したい」と話し、決算の数字に加えて産院の社会的な存在意義なども考慮して存廃を決断する考えを示唆している。議会から「経営改善」を求められて2年。その後の産院や市の取り組みを検証した。【結城かほる】

 ◆議会からの要求

 熊本産院は1950年、経済的に困窮した人向けの助産施設として開院。ピークの1972年度には1400件以上の分娩(ぶんべん)があったが、少子化や分娩に関するニーズの多様化で04年度には300件ほどに減り、経済的困窮者向けの助産措置も303件から62件に減った。90年以降は年1億~2億円の赤字が続き、市は05年12月議会で廃止を提案した。

 しかし、10万人以上の存続署名が集まり、議員の意見も割れたため、議会は06年3月、廃止案を修正。母乳育児の推進▽措置・福祉的分娩の充実▽妊産婦に対する支援体制▽産院の経営状況(赤字額3000万円以上なら廃止)▽産院の施設環境--の5項目に対する産院と市の取り組み状況を見たうえで、2年後に改めて存廃を再検討するとした。

 ◆経営は上向き

 産院は人員削減や利用者増加策を盛り込んだ収支改善計画を策定。06年10月から、火曜午後の診察を、働く人が来院しやすい土曜午前に振り替え、火曜午後に15~20人ほどだった平均診察者数が土曜午前は30人に増えた。また、24時間電話相談や母乳外来を設けたり、産前産後の親向けの「両親学級」を隔月から毎月開催にするなど、特長とする母乳育児を前面に出した。

 それでも07年度の分娩数は270件と、05年度(288件)並み。ただ、外来患者数は約1000人増の1万2800人に、母乳外来数も倍以上の約790人になった。産院の岡崎伸一庶務課長は「赤字額は大幅に縮小している」と話す。

 妊産婦への支援策強化を求められた市も、産院のみだった助産措置ができる公的施設を計5カ所に増やした。また、市内5カ所の保健福祉センターごとに職員や助産師、病院職員らが意見を交わす「地域連絡会」を設立。産後うつのケアなどの連携に取り組み、医療機関から市への連絡・相談件数は06年度568件、07年度690件と着実に増えてきた。

 赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)設置を機に、24時間態勢で受け付けている妊娠相談電話にも、この1年で約800件の相談が寄せられている。市子育て支援課の高浜幸課長は「お産の環境が少しでも良くなるように、という気持ちはどの機関も同じ。市全体の環境が改善してきている」と話す。

 ◆「福祉」の側面も

 産院の存廃を考えるうえで、経営問題と並んで大切な視点が社会的役割の評価だ。産院利用者で作る「家族の会」代表の鬼武優子さん(38)は「産院は母子保健や福祉の役割を果たしている」と話し、幸山市長も「公立病院の役割は何か。その中で産院のあり方を判断したい」と発言している。

 例えば、ホームレスやDV(家庭内暴力)被害者、10代の学生など、通常の妊婦以上の支援が必要な「福祉的分娩」。民間の統計はないが、市によると、07年度に産院で99件、市民病院で98件の福祉的分娩があった。経済的にも困窮した人が多く、市は「公的病院に回る傾向がある」と分析。産院が廃止された場合、市民病院ですべて受け入れられるか。市民病院は「現時点では何とも言えない」と言う。

 産院の松尾勇院長は「退院して行き場がないような人や、時間がかかる妊婦へのケアは公的施設でないと難しい」と話す。

 一度は廃止を提案した幸山市長が今回、どう「総合的な判断」をし、その理由を説明するか、注目される。

毎日新聞 2008年6月3日 地方版

 
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