政府の地方分権改革推進委員会が第一次勧告を首相に提出した。権限死守へ刻み込まれた官僚の「つめ跡」が分権の行方に影を落とす。抵抗をいつまで許すつもりか。政治主導で巻き返しを図れ。
政府の役割は外交、防衛など本来果たすべき役割に限定し、住民に身近な行政は地方へ移譲することで、生活者視点に立った分権型社会をつくる−。推進委の基本的な考えだ。欠かせないのは権限、ヒト、カネの三点セット。勧告には、国から地方への権限移譲が「一の矢」として盛り込まれた。
分権委は教育、福祉などで四十余項目の権限移譲を求めた。例えば全国一律で定められている老人福祉施設などの設置基準は地方独自に決められるよう提言。都道府県の三百を超える事務を市へ移すことも盛り込んだ。地域の実情に即した街づくりへ自治体の裁量を拡大するのは好ましいことだ。
ところが国の直轄国道の管理権限については分権委が求める全面移譲に対し国土交通省が抵抗。勧告では整備・管理の権限移譲を打ち出したものの、具体案は「二次勧告までに得る」とした。国交省は直轄国道の15%程度で済ませたい考えで、縄張り意識は相当なものだ。農林水産省は農地転用許可の権限移譲でゼロ申告を貫いた。他省関連でも「本年度中に結論を得る」との先送りが目についた。
年内に予定される二次勧告では地方整備局など国の出先機関の見直しが焦点だ。出先で働く国家公務員は約二十一万人。多くの権限を地方に移せば、組織の統廃合につながり“身分”が危うくなるとの防衛本能が働いたようだ。
地方分権を掲げる福田内閣の方針に背を向けている。首相は見過ごしにしていいのか。これでは住民の関心も高まらない。一方の自治体には権限移譲への戸惑いが取りざたされる。首相と同じく首長の覚悟が試されている。
首相を本部長とする推進本部は今月中に勧告を踏まえた具体方針を決定する。物足りなさが残る内容だけに、この程度は全面的に受け入れるのは当然である。役人の抵抗で「骨抜き」になった個所については、首相主導で骨を入れ直す作業をしてもらいたい。
勧告では道路特定財源の一般財源化が閣議決定されたことで、税源移譲を含む地方税財源の充実も緊急提言された。地方の要望も強いテーマだ。分権をしっかりとレールに載せるためにも、首相は明確な指針を打ち出すべきだ。
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