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社説:道交法改正 身近な安全問い直す契機に

 交通安全対策の強化を目指す改正道路交通法と関係法令が、今月から施行された。車の後部座席でのシートベルト着用の義務化、75歳以上のシルバードライバーへの「もみじマーク」の表示義務付け、自転車教則の30年ぶりの改定--などが改正のポイントだ。

 シートベルトは23年前からの義務化で前部座席での着用は進んだが、後部座席の着用率は一般道では9%に満たなかったのが実情だ。今後はタクシーやバスの乗客にも着用が求められるため、定着させるには時間を要しそうだが、着用すれば万一の事故での致死率が大幅に低減し、車外に放り出されたり、前方座席の同乗者と衝突する危険も激減する。効用への理解を深めつつ、普及を図りたい。

 「もみじマーク」の表示の義務化については、後期高齢者医療制度への批判が高まる中で、あおりを受けることを嫌った警察庁が、違反者の摘発を1年間先送りする措置を講じる異例の展開となった。

 しかし、シルバードライバーによる事故は年々増加している。「もみじマーク」でドライバー本人に自覚を促すと共に、周囲に注意を喚起し、無理な割り込みなどを禁じることでシルバードライバーを保護するメリットもある。同様に新設される聴覚障害運転手マークについても、一般のドライバーにも目的や用途を周知徹底し、運転マナーの向上につなげねばならない。

 今ごろになって、自転車教本に「歩行者優先」を明記したとは意外だが、歩道での事故が続発する折、通行区分も明確にしながら、自転車の無謀運転を一掃すべきは言うまでもない。運転中の携帯電話やヘッドホンの使用、傘を差しながらの片手運転などを禁じるのも当然だ。法規制だけでなく、警察は街頭での指導、取り締まりに全力を挙げねばならない。

 昨年の交通死者は5744人と、7年連続で減少して54年ぶりに6000人を割った。だが、交通事故の増加には歯止めが掛からず、負傷者数は9年連続で100万人を超えている。史上最悪の1万6765人の死者を出した70年当時の水準さえも上回る。

 これまでの対策は事故死者を減らすことを最優先にしてきたが、今後は事故全体の抑止策に力を傾注すべきだ。法規制で運転者対策を強化するだけでなく、アルコールを検知して飲酒運転を不可能にするシステムや、追突防止装置など最新技術の実用化を急ぐ必要もある。自転車専用道の整備や救急医療体制の見直しも急務だ。

 今回の法改正は結局、身の回りの安全確保を促すものと言える。車の性能が向上し、道路環境が整備されたことが裏目に出たか、不注意や慢心による事故が目立つだけに、改めて一人一人が安全意識の高揚に努め、事故撲滅を期したい。

毎日新聞 2008年6月3日 東京朝刊

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