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社説:欧州中銀10年 政治からの独立に学びたい

 欧州単一通貨ユーロの「番人」、欧州中央銀行(ECB)が満10歳になった。本部のある独フランクフルトは、普段はお堅い金融の街だが、記念コンサートや式典などで、しばしお祭りムードに包まれた。10年の成果は、祝うに十分値するものだ。

 ECB発足から7カ月後の99年1月1日にユーロは欧州11カ国で採用された。その後、加盟国は15カ国に増え、来年はスロバキアが加わる予定だ。ユーロ圏は欧州連合の新規加盟国を徐々に取り込み、さらに拡大を続けていくことだろう。

 誕生直前まで、「うまくいくはずがない」と疑問視されていたユーロである。民族や文化、言語も多様で(ECBの公式言語は22カ国語)、経済構造も違う国々が、自主的に自国通貨を放棄し、金利決定権を国外の機関に移譲する史上初の試みなのだ。日本、韓国、東南アジア諸国などが、円やウォンを単一通貨「アジア」に切り替えるようなものである。総裁をどの国の出身者にするかという点一つとっても、大変さが想像できよう。「ねじれ国会」とか「財務省出身の是非」などという次元ではない。

 その困難を乗り越え、ユーロは予想に反して強い通貨になった。ECBが金融市場や市民から高い信認を得たことが大きい。

 信認をもたらしたものは、たびたび表面化する政治家からの圧力にもひるまず、物価の安定という使命に徹する姿勢を貫いてきた実績だろう。金融不安が広がった昨年夏以降、ECBに利下げを求める政治圧力は特に強まった。米国や、ユーロ非加盟の英国が景気に配慮して段階的に金利を引き下げる中、ECBは金利を据え置いているためだ。ユーロは連日のように史上最高値を更新し産業界や政界からの利下げ要求は静まらないが、物価の上昇加速を心配するECBは、インフレ抑制に注力する決意をより鮮明にしている。

 ECBの設立とほぼ同時期に、日本では改正日銀法が施行された。9人の政策委員が政府から独立して金利を決める今の体制になり、同じく10年が経過したわけだが、日銀への信認は高まっただろうか。

 ユーロは着々と主要通貨としての地位を築いている。各国の外貨準備に占める比率を見ると、ドルが99年の71%から06年の65%に低下する中、ユーロは18%から26%へと高まった。一方で我らが円はといえば、6%強から3%強にしぼんでしまった。

 加盟国間の経済格差が拡大する中で、市場経済の歴史が浅い旧社会主義諸国の加盟が続くこれからが、ECBにとっては試練の本番となりそうだ。ただ、困難を一つずつ克服していけば、ユーロはいずれドルに匹敵する基軸通貨になるだろう。その時、円はローカル通貨に落ちぶれているのだろうか。欧州の挑戦は決して人ごとではない。

毎日新聞 2008年6月3日 東京朝刊

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