JR福山駅前の顔として半世紀近く親しまれてきた福山繊維ビルの取り壊し工事が始まった。ランドマークともいえる建物だっただけに、民間の再開発とはいえ寂しい気がする。
若かった二十年前の記者時代、隣に福山東警察署があったため、ビルの中の喫茶店や食堂、理髪店、クリーニング店をよく利用した。大幅に値引きしてくれる書店などもあって庶民的なところが魅力だった。
誕生したのは一九六一年だ。卸問屋などが入居し備後を代表する繊維産業の拠点となる当時としては大型の商業施設だった。ちょうど戦後復興から高度成長への転換期に当たる。
大きな風呂敷包みを担いだ行商人や小売商が、九州や四国から集まり、にぎわった。しかし車社会の到来で、繊維問屋は去り、大型量販店が周辺に進出し、繊維ビルは飲食店などが並ぶ雑居ビルとなった。
再開発を決断したのは、老朽化に加え郊外への大規模小売店の立地と人口流出による中心市街地の地盤沈下がきっかけだ。スーパーやデパートの撤退が相次ぎ、駅の周辺は、人通りもめっきり減ってしまった。
計画では、二つの高層ビルに、マンションやホテルが入居する予定という。郊外へ出た住民の都心回帰が追い風になろう。にぎわいを呼び戻し中心市街地再生に結びつけてほしい。