自動車の後部座席のシートベルト着用や高齢者マーク(もみじマーク)表示の義務化を柱にした改正道交法が今月から施行された。
二〇〇八年版「交通安全白書」によると、昨年中に起きた交通事故による死者数は五千七百四十四人と七年連続で減少した。五千人台になったのは一九五三年以来五十四年ぶりのことで、ピーク時の七〇年より六割余り減った。この流れをさらに加速させる必要がある。
今回始まった後部座席のシートベルト着用義務化は当面、重大事故が懸念される高速道路での違反が罰則の対象になった。違反したらドライバーに一点の行政処分が科せられる。
シートベルト着用は早くから義務化された運転席と助手席に比べ、後部座席の状況は芳しくない。警察庁などが行った昨年秋の調査では、高速道路での着用率は運転席98・5%、助手席93・5%に対し、後部座席は13・5%しかなかった。
着用していなかった時の致死率は、着用時の約四倍に上るという。事故の衝撃で車外に放り出されたり、前方に飛び出してフロントガラスに頭をぶつけることが多い。
警察庁は後部座席の着用率の低さから、今年秋の全国交通安全運動が終わるまでは悪質なケースを除いて摘発しないとした。取り締まりは事実上、先送りされたが、命を守るため義務化を機に高速道路に限らず一般道でも必ずシートベルトを締める習慣を身に付けよう。
観光バスなども対象になる。バス業界では着用の義務化を知らせるステッカーを車両の乗降口に張るなど、乗客への周知徹底を図っている。運転手の責任が問われることになり、利用者の協力が欠かせまい。
もみじマークの表示は判断力などが低下しがちな高齢者のため、九七年から罰則のない努力義務として導入されている。改正法では七十五歳以上の運転者は義務化し罰則を科すことになった。周知期間として一年間は摘発せず、口頭指導にとどめる。
マークを表示した車両への幅寄せなどが禁止される。周囲のドライバーは高齢者に配慮した運転を心掛けるとともに、高齢者自身も安全運転の自覚をより高めてほしい。
運転能力の衰えを感じたら、免許証の返納を考える好機かもしれない。免許証に代わる身分証明書として、返納時に「運転経歴証明書」が交付される。警察は動体視力などの適性検査で運転能力を知ってもらう取り組みに力を入れており、積極的に活用したい。
日本人宇宙飛行士の星出彰彦さんら七人を乗せた米スペースシャトル「ディスカバリー」が、米航空宇宙局(NASA)のケネディ宇宙センターから打ち上げられ、予定通り地球周回軌道に入った。
国際宇宙ステーションに建設される日本の実験棟「きぼう」の本体となる船内実験室を搭載している。今回の飛行は、きぼうに関連する作業がほとんどだという。「日本のための飛行」と言えるかもしれない。
きぼうの建設は三段階に分けて行われる。三月に土井隆雄さんがステーションに仮設置した保管室に続き、第二弾の星出さんはきぼうの中核施設である船内実験室を取り付ける。来春以降に打ち上げ予定の船外実験装置を加えれば完成する。
きぼうの建設では今回が最大のヤマ場だろう。飛行は約二週間の日程で、四日目に宇宙初体験の星出さんにとって最も重要な任務が待ち受ける。
全長一一・二メートル、直径四・四メートルの実験室をシャトルの貨物室からロボットアームで取り出し、ステーションに固定する。微妙な動きが要求され、手に汗握る作業になりそうだ。
出発前に星出さんは「大きな節目で、わくわくする」と自信を示していた。緊張を強いられるだろうが、高度な作業をこなし成功してもらいたい。
実験室には通信システムを組み込んでいるため、日本国内から直接指示を送って遠隔操作することも可能になる。実験は八月にも開始されるという。
実験装置は細胞培養、流体物理分野などがあり、科学の研究発展に貢献するとされる。二年後にシャトルは退役し、物資補給の飛行確保など課題は多いが、日本が宇宙に自前の実験施設を保有する意義は大きい。星出さんの活躍を期待しよう。
(2008年6月2日掲載)