もみじマークの表示義務化を機にタクシー運転手を引退した桑本さん=金沢市小立野3丁目
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一日施行された改正道交法で「もみじマーク」の表示が義務付けられたのを機に、金沢
個人タクシー協同組合で最年長の運転手桑本亮さん(80)=同市小立野三丁目=が、五
十四年間続けたタクシー運転手を引退した。健康面に問題はないものの「客に不安を与え
る」と決断した桑本さん。同じく七十五歳以上が対象の後期高齢者医療制度(長寿医療制
度)を引き合いに「高齢者いじめばかりや。心にぽっかりと穴があいたよう」と語り、一
日、営業車から行灯(あんどん)を取り外した。
桑本さんは一九五四(昭和二十九)年に大和タクシー(同市)に入社、七〇年六月から
個人タクシーの営業を始めた。
個人タクシーの運転手は七十五歳以上になると毎年、適性検査が義務付けられ、桑本さ
んは裸眼視力一・二など問題はない。車間距離を多くとるなど安全運転にも気を配り、「
引退なんて考えたこともなかった」と話す。
週一回の定休日を除く毎日、午前八時から午後六時までハンドルを握り、兼六園で観光
客を乗せる機会が多かった。バブル経済期には二泊三日の能登旅行を案内することも多く
、最後の乗務となった先月三十一日は県外の観光客を近江町市場まで案内し、「金沢は緑
が多くて住みやすい街」とPRした。
「毎日、出会いがあるのがタクシー運転手の醍醐味(だいごみ)。マークの義務化さえ
なければ続けたかった」という桑本さん。十年近く走らせた愛車を磨き、「長い間ご苦労
さん」とつぶやいた。