人権擁護委員制度は1948年、憲法に定められた基本的人権を保障するために設けられた。49年には制度を恒久的なものにするため人権擁護委員法が施行された。 委員は、市町村長が候補者を選んで法務局へ推薦し、法務大臣が委嘱する。任期は3年(再任可)で、元教諭や弁護士、団体役員などが多い。現在、約1万4000の委員が各地で人権啓発や救済活動に携わっており、いじめ事件の続発を受けて始まった小中学生対象の「SOSミニレター」や、電話による「女性の人権ホットライン」などの相談事業にも取り組んでいる。 全国人権擁護委員連合会は、同法が施行された6月1日を「人権擁護委員の日」と定め、啓発活動を展開している。 × × ▼女性の人権ホットライン 0570(070)810 ▼子どもの人権110番 0120(007)110 いずれも全国共通の電話番号で最寄りの法務局窓口につながる × × ◇6月1日の医療・健康面は休みました。2日は歯の衛生週間(4−10日)を前に乳歯段階での虫歯予防の大切さや最新の矯正治療を紹介します。
(2008年6月1日掲載)
●手紙を通じていじめ把握 草の根活動に意義
▼成 果
−いじめや虐待されている子どもの相談を受ける「SOSミニレター」の取り組みが成果を上げているようですが?
北村 全国の小中学生に手紙を配って悩みを書いてもらい、人権擁護委員が返事を書くシステム。初年度の2006年度は全国の小中学生1割が対象予定だったが、福岡県筑前町のいじめ自殺事件などがあり、全学年に配られた。福岡県内では約48万9000通配り、約450通の手紙が送られてきた。
翌07年度は、対象が6学年に減り29万4000通しか配布しなかったのに、送られてきた手紙は約470通に増えた。内容は体罰やいじめなどで、緊急性があるケースでは本人の同意を得て学校に連絡することも考えられている。
前田 いじめの問題は深刻化し、水面下に潜って見えなくなっている。表面ではじゃれ合っているように見えても、実はいじめだったりする。学校側はいじめの事実を隠すので、ミニレターは子どもが発するまさに最後のSOS。水面下の問題を顕在化できる有効な手段だと考えている。
実際、事件に発展したケースもある。これからは家庭内の虐待という案件では児童相談所との連携が必要になってくる。人権擁護委員が最大限に力を発揮できるのがSOSミニレターで、今後はこの取り組みを柱として、注力していいのではないかと思う。
福地 私は当初、十分な研修も受けていない人権擁護委員が、大量に手紙が来たときに対応できるのか心配で消極的な意見を述べていた。ところが、1日に100通手紙が来ても委員は非常に頑張って対応できた。
課題は予算。ミニレターの予算措置は国で、人権擁護委員は実行部隊。06年度は補正予算で全学年に配ったが、07年度は小中学校一学年ずつと言われた。それで、福岡県では内部予算をやりくりして対象を六学年に増やした。せっかくの良い取り組みなのに、こういった場当たり的なやり方は問題だ。国には継続的な事業として予算をつけてもらいたい。
▼課 題
−インターネットを使った人権侵害に対応する専門性の高い委員の確保など、課題についてはどう考えていますか。
福地 委員の選考は市町村が推薦する形をとっているので、それぞれの市町村の方針がある。2期6年で交代したり、こちらが期待したようにはならない。
委員は基本的に無報酬で、第一線で活躍している現役世代の専門家にボランティアの委員になるように頼むのは困難なのが実情だ。
前田 日弁連の活動を経て痛感するのは人権意識・感覚というのは実に奥が深くて難しい、ということだ。
例えば、黒川温泉(熊本県南小国町)であった国立ハンセン病療養所入所者の宿泊拒否問題を聞いて、おかしいと感じるかどうか。ホームレスのテントが公園などから撤去されることはどうか、容疑者の実名や私生活の様子が詳しく報道されることはどうか、ここでは、各委員の人権意識と感覚が問われる。また、人権救済に携わるためには、その前提として事実認定をしなければならないが、このためにはある程度、技術的なものが備わっている必要がある。
だからといって、法律の素人には委員が務まらないということではない。人権擁護活動の奥深さを的確に理解し、人権擁護のために自分に何ができるのかを常に自問自答して活動していくことで、社会に大きな貢献ができると思う。
−今後の人権擁護委員のあるべき姿について、意見を聞かせてください。
北村 委員はこれまで以上に人権について勉強し、相談を受けていく。委員とともに、みんなで人権について考えていくという意味でも大きな役割がある。人権侵害の被害者に寄り添いながら活動し、人権啓発活動を発展させていきたい。
前田 人権擁護活動に携わる際に最も重要なことは、国家権力と対置する概念としての「在野」の意識・感覚を持つことだと思う。この世の中には、さまざまな問題がある。
例えば、社会のシステムから外れてしまっているために、健康で文化的な最低限度の生活すらできずに苦しんでいる人々にどう対処すればよいのか。この問題を考えるときに「在野」の意識・感覚が不可欠だ。そして、委員は基本的に「在野」の人の集まりなのだから、研さんを積むことで適切な対処ができる組織になれると思う。
福地 人権擁護委員制度は捨てた物ではないと思っている。弁護士は大都市に集中しているが委員は全国津々浦々に配置されている。弁護士が受任しない収支が合わないことでも地道にまじめに活動している。草の根的な活動には大きな意味があると信じている。