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今晩の話題 (2008年6月2日 夕刊 1面)

「命の格差」

 昨年六月、北部地区医師会が始めた救急ヘリが、財政難からこのままでは七月から運休に追い込まれる。

 救急車が疾病者を病院に搬送するまでの県内の収容平均時間は二十九分だが、国頭地区消防本部は四十八分(県消防年報)で最も遅い。一時間以上かかることはざらで、一回の出動での最長距離は百四十キロ。那覇と名護の高速道路を往復する距離に匹敵する。

 那覇など都市部に住んでいては想像できないほど病院が少ない上に、遠いのだ。県立北部病院の産婦人科は再開のめどが立たず、危険性を伴う出産は、中南部の病院に搬送しなければならない。

 経営基盤が盤石ではない北部地区医師会が、救急ヘリ導入に踏み切ったのは救急医療への使命感からだ。行政が費用を負担する「ドクターヘリ」導入を目指すが、人口が少ないことなどから適用が困難視されている。しかし、都市部と過疎地で命の格差が広がっている現実がある。一民間病院の使命感だけに頼ること自体に、無理がある。「安心して緊急医療を受けることができない北部振興≠チて一体何?」と思ってしまう。

 国や県の支援は重要だ。しかし、行政の過疎地域への施策は、冷たく映る。北部に住む者、県民として何ができるのか。その場しのぎではなく、長期的に子供からお年寄りが安心して暮らせる、北部のビジョンが今ほど求められている時はない。(知念清張)




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