改めて気づいた報道人としての多面性

オーマイニュース元木社長インタビュー(上)

湯浅 秀昭(2008-06-02 16:30)
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なぜ今、元木社長への取材か?

 5月23日、午後3時から約40分間、元木昌彦氏の取材が叶った。私が一番取材したかったのは、オーマイニュース社長としてではなく「報道人・元木昌彦」の事象を見るときの立ち居地であった。私の氏のイメージと言えば一貫した反権力、それでいて巨人ファン。そして頑固なまでの護憲派でもある。また、自民党議員への取材記事などから決して敵対しているだけとも思えない。これまでの報道人として、相当の修羅場をくぐり抜けたであろう静かなこわもてとの先入観もあった。

 「反権力・護憲・巨人ファン・自民党人脈・こわもて」。それぞれがこれまでの氏の文章などからうかがい知ることができるが、1つの人格として私の中で結びつかなかった。巨人ファンだったこと以外は対極の立ち位置にある人だと思ったので、興味はあったものの取材できる関係が築けるとは思ってもみなかった。

 ところが2月23日のオーマイニュース関西カフェに参加したときに、氏から飲みに誘われた。水割り談義で生臭い話なく楽しい時間を過ごすことができた。それ以来、私の中でまとまらない氏のイメージを1つにすることが念願となったのである。
元木社長と湯浅秀昭市民記者編集委員(撮影:小宮山圭祐)

 私の興味を優先し、氏の報道人としてのアイデンティティーを聞き出そうと、さまざまな角度から話を聞く。すると、次のような話を聞くことができた。

「空白の1日」は少なくとも法的に問題はない

 78年から79年のプロ野球シーズンオフの江川卓氏の巨人入団を巡り、野球協約の完全な盲点を突いて入団契約を行い、それを無効としたセ・リーグ会長に巨人が反発、ドラフト会議をボイコットした。そのドラフト会議では阪神が江川氏との交渉権を獲得するが、日本野球機構コミッショナーの金子鋭の裁定で当時の巨人の不動エース小林繁氏と交換トレードが行われた。

 当時のマスコミがこぞってたたいた江川卓氏と巨人、読売巨人という権力の横暴の1つである「空白の1日」問題で週刊現代の現場にいた氏は「江川の全盛は大学時代、旬を過ぎた江川を取るために20勝投手である小林を手放したことは決して巨人にとってプラスではない」と論陣を張った。

元木社長(撮影:小宮山圭祐)
「警察の捜査がおかしい」と思った

 94年長野県松本市でサリンが散布され、死者7人・重軽傷者660人を出した事件で、当時週刊現代の編集長であった氏は警察発表に基づき被害者である河野さんについて当初やはり犯人として記事を組み立てて書いた。

 しかし、事態が進むにつれ「河野さんの自宅にあった薬品の使用目的が明確なこと」「それらの薬品から毒ガスが作れるのか」と言ったことから、「どうも警察の捜査がおかしい」とほかの新聞・雑誌に先駆けて書いた。

たった一度筆を下げた

 自民党所属の某地方議員が新自由クラブにくら替えして衆議院に立候補する際に女性スキャンダルをつかみ、取材をして本人も事実関係を認めた。その後周囲から「将来ある人であり、将来ある新自由クラブであり、何とか書かないでほしい」と言われ、さらにその不倫関係も円満解消したので様子見と言うことで記事にしなかった。後にその議員は閣僚まで上り詰めた。

不倫を憎んで報道したことはない

 週刊誌は編集も読者も不倫ネタは好きであるが憎んで報道したことはない、政治手腕とは別物だと思うが、そういった情報も含めて選挙民に選んでもらう必要はあると思う。

湯浅・市民記者編集委員(撮影:小宮山圭祐)
イデオロギーに立ち位置を置けば簡単、それではプロじゃない

 事象に対する立ち位置をどこに置くかを決めるのに書斎の畳の上にメモをまいて上から眺めながらさまざまな可能性を考え仮説を立て取材を重ねる。そして増えたメモをさらにまき捨てたり組み合わせたりしながら、取材方向を修正したり見直して記事にしてゆく。

  ◇

 このような話を聞く中で、私から見て相反する多面性を持ち合わせた元木昌彦という報道人は、実のところその本人が1つの事象をいろいろな方向から見て結論を導き出せる人であることに気づいた。それゆえにイデオロギー的観点から氏を理解するには無理があることが分かった。

 氏が報道の世界に身を置き、成功や失敗の中から、スタンスを固定してしまうことの無意味さや危険性を感じ取る中で、培われた多面性であろう。

 私は新聞・雑誌・書籍を読み、報道番組を視聴しながら不動の立ち位置を探して来た。結局、長年週刊誌に携わり多くのインテリジェンスに触れ情報を発信してきた氏には、固定化された立ち位置は存在しなかったのである。

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