好評を博した『問題解決型救急初期診療』の続編。実際の診療では、臨床医は患者の訴える主観的な問題だけでなく、検査値の異常など、患者の示す客観的なデータにも対応しなければならない。そして、診察所見やデータの異常は、診断の重要な手がかりにもなる。ともすると検査データばかり見て生身の人間を診ることを忘れてしまいがちな日常診療で、検査データの異常から何が問題なのか、次に何をどのようにすればよいのかをわかりやすく解説。
序 文
序
田中 和豊
2003年10月に著者は『問題解決型救急初期診療』を上梓した.この本は患者の訴える主訴,すなわち,主観的データに対してどのようにアプローチしマネジすればよいのかを解説した本である.
しかし,実際の診療では,臨床家はこのような主観的問題だけでなく,診察や検査...
序
田中 和豊
2003年10月に著者は『問題解決型救急初期診療』を上梓した.この本は患者の訴える主訴,すなわち,主観的データに対してどのようにアプローチしマネジすればよいのかを解説した本である.
しかし,実際の診療では,臨床家はこのような主観的問題だけでなく,診察や検査データの異常などの客観的データにも対処しなければならない.例えば,発熱,心雑音,腎機能異常,血液ガスデータ,心電図異常などの異常な診察所見あるいは検査データである.これらの診察所見や検査データの異常が診断の重要な手がかりとなることも少なくない.
ところが,検査学の本には単に検査の基準値や異常値およびその異常値を起こしうる疾患の記載だけしかなく,異常値をどのように解釈し,それに対してどのように対処すればよいのか,などの実際の診療で生かせる「生きた知識」の記載がないことが多い.これでは,検査データのみを治療して生身の人間を治療することを忘れてしまいかねない.検査データは,問診・診察・診断・治療およびマネジメントという一連の文脈contextから把握されなければならない.そして,検査の究極的な目的は,検査データの正常化だけではなく,検査データの正常化を通して患者自身を治療することなのである.
ともすると検査データばかり見て生身の人間を診ることを忘れてしまいがちな日常診療で,検査データの異常から何が問題で何をどうすればよいのかを明確にしようとしたのが本書の目的である.本書は救急室で使用されることを想定したが,単に救急室だけでなく病棟および集中治療室でも使えるように配慮したつもりである.
検査値については国際基準であるSI単位はまだ日本で普及していないので,通常の単位を用いたのでご了承いただきたい.
前書の『問題解決型救急初期診療』と同様に,本書は一個人によって書かれた本である.したがって,本書の内容には当然思い違い,間違いや行き届かない点が多々あるかもしれない.これらの点に気づかれた読者の方々はご面倒でも下記までご連絡くださるようにお願いしたい.
本書が日々の日常診療に役立ち,そのため患者に対して無駄な検査や治療が行われなくなって,それが患者一人一人の幸福につながり,ひいては日本の医療の発展に寄与することを著者は願ってやまない.
最後に,原稿を丹念にご校正いただいた亀田総合病院総合診療部感染症内科 岩田健太郎先生,洛和会音羽病院ICU/CCU・感染症科・総合診療科・腎臓内科 大野博司先生,藤田保健衛生大学一般内科 山中克郎先生(50音順),および,再三の校正でご無理をお願いした医学書院の方々に深く感謝してペンをおく.
連絡先 info@igaku-shoin.co.jp
2007年12月
目 次
第1部 イントロダクション-検査の原則
1. 検査の目的 purposes of tests
2. 検査の指標 parameters of tests
3. 検査の選択 selection of tests
4. 検査計画 planning of tests
5. 検査解釈 interpretation of tests
6. 診断 diagnosis
7. マネジメント management
第2部 バイタル・サインとモニタ-病態把握の指標
1. バイタル・サインとモニタ vital signs and monitor
2. 意識 consciousness
3. 呼吸 respiration
4. 脈拍 pulse
5. 血圧 blood pressure
6. 体温 temperature
7. 酸素飽和度 oxygen saturation
8. 血糖 plasma glucose
9. 尿量 urine volume
第3部 身体診察-鑑別診断の特定
1. 問題解決型身体診察 problem-oriented physical examination
2. Stridorと肺音 stridor and lung sounds
3. 心音 heart sounds
4. 腹部診察 abdominal examination
5. 黄疸 jaundice
6. リンパ節腫脹 lymphadenopathy
7. 皮膚 skin
8. 神経学的診察 neurological examination
第4部 血液検査-病態生理の解明
1. 血液検査の原則 principles of blood tests
2. 白血球 white blood cell
3. ヘモグロビン・ヘマトクリット hemoglobin/hematocrit
4. 血小板 platelet
5. ナトリウム sodium
6. カリウム potassium
7. カルシウム calciumとリン phosphorus
8. マグネシウム magnesium
9. 腎機能 kidney function
10. 肝機能 liver function
11. アミラーゼ amylase
12. CK creatine kinase
13. 凝固能検査 coagulation test
14. 簡易検査キット test kit
第5部 動脈血ガス-診断・治療の羅針盤
1. 動脈血ガス分析 blood gas analysis
2. 呼吸不全 respiratory failure
3. 高酸素血症 hyperoxemia
4. 低酸素血症 hypoxemia
5. 高二酸化炭素血症 hypercarbia(hypercapnia)
6. 低二酸化炭素血症 hypocarbia(hypocapnia)
7. 酸塩基平衡障害の評価 evaluation of acid-base disorders
8. 練習問題 questions
9. 代謝性アシドーシス metabolic acidosis
10. 代謝性アルカローシス metabolic alkalosis
第6部 心電図 electrocardiogram-心筋の電気活動を通して見る人体
1. 基本事項 fundamentals
2. 心電図の判読方法 how to read EKG
3. 特殊な波形パターン specific wave patterns
4. 不整脈 dysrhythmia
第7部 尿・便・体液検査-局所から得られる全身の情報
1. 尿検査 urine test
2. 便検査 stool examination
3. 髄液 cerebrospinal fluid: CSF
4. 胸水 pleural effusion
5. 腹水 ascites
6. 関節液 synovial fluid
第8部 感染症検査-微生物との戦い
1. 基本戦略 basic strategies
2. 染色法 stains
3. 培養 cultures
4. 簡易検査 test kit
5. ツベルクリン反応 tuberculin test
6. 敗血症 sepsis
付録
1 基準値一覧
2 計算式一覧
索引