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自衛隊派遣中止 中国国民への配慮足りない2008年5月31日

 中国の四川大地震被災者に救援物資を輸送するための航空自衛隊輸送機派遣が一転、見送られることになった。過去の歴史など非常に複雑な背景が絡むだけに、これほどすんなりと派遣が決まるものなのかと疑問を抱いていたが、やはり容易ではなかった。政府は、中国国民の日本に対する感情を正確に測っていなかったといえよう。
 自衛隊の派遣は国際緊急援助隊法に基づくものである。同法は1987年に施行されたが、当初は自衛隊参加が認められていなかった。参加が可能になったのは92年の改正以降である。同法に基づく派遣はこれまで9例ある。
 今回の自衛隊機派遣は、人道的支援の観点から見れば、完全に否定できるものではないだろう。地震による死者数は7万人に迫り、いまだに2万人近くの人たちが行方不明のままだ。さらに負傷者は約36万5000人。被災者に至っては4500万人超という未曾有の数に上る。援助の手が届かず、路上で厳しい生活を余儀なくされている人たちは多い。最低限の雨露をしのぐテントも不足しているというのだから、1日も早く支援物資を現地に届けたい。
 重要なのは被災者の援助、この一点である。
 だが今回の顛末(てんまつ)を見ると、政府は「自衛隊による輸送ありき」で動いたように見える。政府は地震の発生直後から中国側に、自衛隊機による救援物資の輸送を打診していた。緊急援助隊の活躍が現地の人々の高い評価を受けると、派遣の働き掛けを強めていった。当初、中国側も前向きだったが、国内のウェブサイトに反対論が多数寄せられ、世論の反発がエスカレートしたため最終局面で受け入れを思いとどまったようである。
 慎重さに欠けていたと、外務省の中からこのような発言が出た。さらに政府内からは「もともと自衛隊ありきではなく、中国が求めたのはテントの供給だった」、与党関係者からは「自衛隊機か民間機かは付随的なことだ」という指摘がある。
 いかに拙速であったか分かる。これまでの両国関係の経過に沿えば、慎重な配慮が必要だった。今回の顛末では「弱みに乗じて」と厳しく批判されかねない。胡錦濤主席の来日で関係改善に踏み出した直後だけに、それを後退させかねない政府の対応のまずさは批判されるべきである。
 政府は、援助物資を民間チャーター機で輸送することになった。最初からそうすれば良かったのだ。
 他国に先駆けて被災地に入った緊急援助隊のひた向きな活動がなぜ現地の人々の胸を打ったのか。そこに助け合いの神髄が見える。緊急を要する人命救助に、政治的打算を働かせるべきではない。


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