【仕事事情】国など、アニメーター育成支援日本のアニメーション業界で働く次世代の人材を育てようと、国や自治体が業界の支援に乗りだした。(小嶋伸幸) 迫られる、高度な技術伝承宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」が海外でヒットするなど、日本のアニメ業界は世界で評価が高い。しかし、人手不足の波はアニメ界にも押し寄せており、技術を受け継ぐ優秀な人材が求められているという。 〜自治体も…地場産業化 杉並アニメ匠塾を経てアニメーターとして活躍する村上二郎さん(右)(東京都杉並区のトランス・アーツで)=本間光太郎撮影
東京都杉並区のアニメ制作会社「トランス・アーツ」のスタジオで、アニメーターの村上二郎さん(25)は日々、机に向かってアニメの原画を描く。アニメ制作に携わるようになって3年になる。 原画は、アニメの中でキャラクターの動きのポイントとなる場面を描いた絵のこと。その原画を基に一連の動きを描いた多数の絵が作られ、アニメが仕上がる。原画を専門に描くアニメーターは、アニメ作りの中心的な役割を担う。 村上さんは、杉並区が若手アニメーターを育成するため設けた「杉並アニメ匠(たくみ)塾」の卒業生だ。杉並区にはもともとアニメ制作会社が多かった。同区はアニメ産業を地場産業に育てようと2002年に塾を開いた。毎年、全国からアニメーターの卵を募集。区内のアニメ制作会社に研修生として半年間派遣する。区は指導料などを制作会社に支払う。 村上さんはトランス・アーツで研修を受けた際、作画の技術が評価されて同社の契約社員になった。昨年11月からは、アニメーターとして原画作成を担当するようになった。村上さんは「原画の出来次第で、アニメ全体の出来も決まるので、責任がある」と作業に力を込める。 〜下積み、短縮へ アニメ制作会社のゴンゾで契約社員として働く曽我秋美さん(左)
アニメを日本の重要な産業とみる経済産業省も、次世代のエリート育成に向けた事業を行っている。アニメ制作会社でつくる日本動画協会(東京都千代田区)に委託し、熱意のある人材を公募して研修生を選抜。アニメーターに育てるという。 業界では3年程度の下積みを経て、原画を描くアニメーターになるのが一般的だ。しかし下積みの間は収入が少なく、若者から敬遠される要因となっていた。プロジェクトでは、下積み期間が短くて済むように優秀な人材をよりすぐる。 今年4月からアニメ制作会社の「ゴンゾ」(東京都練馬区)で契約社員として働き始めた曽我秋美さん(23)は、この事業に応募して、研修生に選ばれた一人だ。 試験では、ドアを開けて部屋に入り、窓際のイスに座る過程を20枚程度の絵にするという高度な課題が出された。応募者147人から選ばれたのは11人。今年3月までに全員がアニメ制作会社に派遣された。 曽我さんは、早稲田大で民俗学を学んだ異色の経歴を持つ。高校時代には芸術コースに通っていたため、絵を描く仕事に関心があったという。 現在は、映画としてヒットしたアニメ「ブレイブストーリー」などを題材に特訓を受ける。指導にあたるゴンゾ制作部制作プロデューサーの堀裕治さん(33)は「彼女の作画の技術はこれからだが、考える力が優れている」と期待する。 日本経済全体の課題民間の調査機関、メディア開発綜研の調べでは、国内のアニメ産業の市場規模は05年に2339億円と過去最高を記録した。テレビアニメやDVDの売り上げが主なもので、この10年間で1・5倍に膨らんだ。キャラクター商品の販売なども合わせると、産業規模はさらに大きいという。 また、「セーラームーン」や「ドラゴンボール」など海外で放映される日本のアニメも多い。重要な輸出商品ともなっており、業界の人材育成は日本経済全体の課題の一つとも言える。 しかし、業界では過去の不況のあおりを受けて、作画を人件費の安いアジアなどに外注する動きが広がった。今ではアニメを構成する絵の9割が海外で制作されているという。このため、若手アニメーターの育成が難しくなっていた。 また、優秀なアニメーターは年収1000万円を超える人もいるが、下積み時代は労働時間も長く、給与水準も高くない。アニメへの情熱だけで業界に人材を呼び込むのは難しく、アニメ制作を魅力ある職場としていくことも業界の課題となりそうだ。 <メモ>アニメーター (2007年4月16日 読売新聞)
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