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【主張】責任能力 裁判員にも分かりやすく
責任能力をめぐって、対照的な判決が東京地裁であった。ともに東京・渋谷で起きた2つの殺人事件だ。兄が妹を殺して遺体を切断、もう1つは妻が夫を殺害後、やはり遺体を切断、遺棄した残忍で猟奇的な事件だ。
妹殺害は、殺人については責任能力があったと有罪にした一方、死体損壊時は心神喪失状態だったとの鑑定結果を採用して無罪と認定、懲役17年の求刑に同7年を言い渡すという異例判決だった。
夫殺害事件は、犯行時の妻の精神状態について、完全責任能力をほぼ認め、懲役15年(求刑・同20年)の判決を下した。責任能力をどのように判断するかで、量刑に大きな差が出た典型例だ。
両事件とも来年5月から始まる裁判員制度では、審理の対象となる重大事件である。それだけに、素人の裁判員にとっては、責任能力をどう認定するかが求められる。被告の刑を大きく左右する問題だけに裁判員には、相当の精神的負担となりそうだ。
妹殺害事件は、被告が殺人を犯し、その後遺体をバラバラにしている。判決は、殺人時の責任能力を、「自分の行動を制御する能力が欠けていたが、責任能力が限定されるとまでは言えない」との判断を下した。
しかし、遺体切断については、「死体損壊時は別の獰猛(どうもう)な人格状態にあった可能性が高い」と認定、心神喪失だったとする鑑定結果を尊重し、被告の刑事責任能力を否定した。矛盾した判決と言わざるを得ない。
このような結論は、一般の市民にとってはわかりにくく、理解できないというのが率直な感想だ。精神鑑定には医学的で難解な専門用語が出てくる。
裁判員制度に向けて、精神鑑定医は裁判員に分かりやすい説明を極力心がけるよう求めたい。また、裁判官、検察官、弁護士の法曹3者も裁判員が理解しやすいよう審理を進めることが肝要だ。
とくに裁判官は、被告の量刑を決める評議では、裁判員に懇切丁寧に鑑定結果の意味、被告の精神状態を説明し、裁判員が責任能力の有無を判断しやすいようにもっていくことが要求される。
裁判員制度は有罪、無罪だけでなく量刑も裁判員が判断する。死刑か無期懲役にするかという選択も迫られる。それだけに裁判員が判断しやすいような材料をどれだけ示せるかが今後の課題だ。