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社説1 新型インフル、予防的措置に力入れよ(6/2)

 経済界が政府に新型インフルエンザの予防的措置強化を働きかけようとしている。日本経団連は月内にも政策提言をまとめ、政府に要請する考えといわれ、日本商工会議所も同様の要請を検討中のようだ。

 新型インフルエンザ流行への備えと対策は、政府や国会に任せておけばいい問題ではない。企業も家庭もいざという時に備えが必要だ。経済界がこの問題に関心を持ち、自ら対策をとる一方で、政府の対策の足らざる点に注文をつけて、備えを万全にする機運が出ているのは歓迎すべきことである。

 経済界が求める予防的措置の強化は、流行が見込まれる新型インフルエンザに合わせた「プレパンデミック・ワクチン」の備蓄増強と希望者への事前接種である。現在、2000万人分しかないワクチンの備蓄量を増やし、希望する人にはすべて事前接種を認めるよう求めている。

 備蓄ワクチンは東南アジアで鳥から人への感染が起きている「H5N1」型の流行を想定して製造している。実際に発生する新型が想定と違っていれば効き目は薄いかもしれない。だから全国民分の備蓄が必要かどうかは議論の余地はあるが、想定通りの展開に備え、備蓄量はそれなりに積み増しておいてもよい。

 備蓄ワクチンの事前接種は政府が今夏から試験的に始める。ただし、有効性や安全性の評価のためだから、対象者はまず医療機関などの希望者約6000人に限定している。

 効能ばかりでなく、副作用をしっかり見極める必要があるので、とりあえず対象者を限定するのはやむを得まい。副作用のリスクの見極めがついたら、経済界の言うように速やかに対象を限定せずに希望者に接種できるようにすべきだろう。

 東南アジアなどでは「H5N1」型の感染例が380件以上ある。こうした地域で感染リスクにさらされる日本の企業人には接種を望んでいる人も多いはずだ。

 もちろん、試験的接種では見極めのつかない副作用も残るだろう。希望者には想定外の副作用のリスクがあると説明し、それを受け入れることを接種の条件とすればよい。

 新型インフルエンザ対策で重要なのは、発生と同時にそれに合ったワクチンを速やかに全国民分用意できるようにすることだ。現在の製造能力ではそれに1年半かかるが、期間短縮は喫緊の課題だ。新たな製造技術の開発も急ぎ半年以下、できれば3カ月程度で国民すべてに接種できるようにすべきである。それが実現できるだけで脅威はかなり和らぐ。

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