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2008年6月2日

 海洋冒険小説「宝島」の作者であるR・L・スティーヴンスンにはもう1冊よく知られた小説がある。「ジキル博士とハイド氏」である

「ジキルとハイド」と言えば二重人格の代名詞のようなものだ。ジキル博士が変身薬で善と悪の人格を行き来し、悪の人格に乗っ取られていくさまは今読んでも恐ろしい

渋谷の短大生殺害切断事件などの判決は精神鑑定を扱う難しさを示していよう。被告は「別のどう猛な人格状態にあった可能性が高い」として死体損壊については無罪になった。確かに死体を切り刻むなど普通の精神状態ではできないだろう。だが、判決で言う別の人格に変わったのはいつからか、という素朴な疑問をもった

一方で、同じ渋谷であった夫殺害切断事件の判決では、被告の精神障害を認めながらも責任能力はあったとした。精神鑑定の扱いは裁判所の胸三寸のようで、司法の物差しがよく分からない

江東区の女性不明事件など猟奇的事件が相次ぐ。これらも「ハイド氏の犯行」とされては遺族はたまらないだろう。だが、すべては心の闇の中のこと。裁判員制度にまた難問だ。


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