もうずいぶん前のことになるが、私が駆け出し記者だったころ、福山市内の画廊で直木賞作家の山口瞳氏(一九九五年没)に会った。確か、山口氏のスケッチの個展で取材に行ったのであると思う。帰りに自著「湖沼学入門」(講談社刊)を下さり表紙裏に絵と私の名前を書いてくださった。
その後、その本のことは忘れていた。最近ふと手に取って読み始めている。忙しかった山口氏が仲間とスケッチ旅行をされたエッセー。たんたんと語り、たくまざるユーモアがあって肩の凝らない好エッセーである。
考えてみると、私はこれまで多くの方々との“出会い”を得た。同じ福山時代、お会いした広島県甲山町(現・世羅町)出身の彫刻家 杭谷(くえたに)一東(かずと)さんは今、イタリアを中心に世界を舞台に活躍されている。当時のささやかな出会いを思い出しワクワクする思いで見守らせていただいている。
現在の職場は内勤であり、華やかな出会いこそ少なくなっているが、仕事の上でもまた、プライベートでもいろいろな出会いの中で教えられることは多い。
福山市老人大学の学長である閑谷雅行氏が最近「牡丹を焚く―老人の品格」を出版された。田舎の父から薦められて読んでいる。閑谷さんの出会いは私には及びもつかぬほどに多彩。閑谷氏の大らかな人柄も感じられて楽しい。
出会いとは、こうした人の出会いだけでなく本や絵、音楽などいろいろある。これからも“出会い”を楽しみつつ仕事に向かいたい。 (ニュース編集部・松浦学)