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社説:クラスター爆弾禁止 今こそ日本は廃絶の先頭に 無差別攻撃から市民を守れ

 市民を無差別に殺傷するクラスター爆弾がついに国際法上、違法な兵器と認定され、追放される。

 賛同国と国際NGO(非政府組織)が国際条約作りを進めてきた軍縮運動「オスロ・プロセス」は30日、アイルランド・ダブリンの会議で、禁止条約案を採択した。12月にノルウェー・オスロで調印される。参加約110カ国の全会一致で決まった条約は、クラスター爆弾をほぼ全面的に禁止する厳しい内容だ。罪のない市民が不発弾の犠牲となる不条理を地球から一掃しようとする歴史的な条約合意を歓迎する。

 日本政府はオスロ・プロセスに出席はしたが、条約の内容に異論を唱え、自衛隊のクラスター爆弾保有を正当化してきた。大詰めになって方針を変更し、採択に同意した。毎日新聞は、日本が禁止条約賛成に踏み出すよう求め、福田康夫首相の政治決断を促してきた。政府内の反対論を抑えて禁止に賛成した福田首相の判断を評価したい。

 姿勢を転換した今こそ、日本は世界の先頭に立ってクラスター爆弾の廃絶運動を率いる決意を示してほしい。少なくとも三つの取り組みから始めたい。

 ◇首相の決断を評価

 まず、条約により、使用も保有も禁止される自衛隊のクラスター爆弾すべての廃棄を発表し、早急に実行すべきだ。すでに英仏独は自国のクラスター爆弾廃棄を表明している。

 日本政府は、敵の着上陸侵攻を防ぐ抑止力として保有すると説明してきた。日本本土を攻撃する敵国は、クラスター爆弾を恐れて上陸作戦を思いとどまるだろうか。住民の避難や不発弾の除去が完全に行えるかも疑問だ。クラスター爆弾は広い地域を制圧するため、軍事目標と市民を区別しない無差別の攻撃用兵器だ。条約に参加する以上、全廃を前倒しで始めるべきだ。

 第二に、条約は、不発弾の処理や保有兵器の廃棄、被害者の援助に対し国際協力を求めている。国際NGOの調査では、過去30年間で25カ国・地域で使われ、地雷のようにいつ爆発するかわからない不発の子爆弾は世界に数千万個以上も転がったままだ。

 不発弾を取り除いて安全に処理し、被害者の治療やリハビリテーションを急いで進める必要がある。日本の支援は大きな役割を果たすだろう。

 97年採択の対人地雷禁止条約でも、日本政府には慎重論が強かったが、小渕恵三外相(当時)の判断で、方針を変え署名した。保有していた地雷約100万個をすべて廃棄し、各国の地雷除去を助け、被害者支援を続けてきた。日本の技術力は地雷の探知・除去にも役立っている。

 クラスター爆弾禁止条約賛成により、日本は地雷に続く国際貢献の新たな機会を手にしたともいえる。「顔のみえる支援」で日本の評価と信頼を高めたい。

 第三に、条約は、クラスター爆弾の不使用と条約参加を未加盟国によびかけるよう加盟国に求めている。加盟しないが大量に保有する中国やロシア、とりわけ同盟国の米国に対し、日本はクラスター爆弾の人道上の問題を説明し、使用中止を働きかけるべきだ。

 対人地雷禁止条約の締結国が156カ国となり国際ルールとして定着すると、地雷は持っていても使えない兵器となってきた。米国もイラク戦争でクラスター爆弾は使ったが地雷は使わなかった。クラスター爆弾を世界中で実質的に使えない兵器とする取り組みを日本は推進してほしい。

 条約は、クラスター爆弾の使用だけでなく、開発、生産、保有、移譲を禁止した上、こうした禁止行為を行う他者を援助することも禁止した。しかし、禁止行為を行うかもしれない非加盟国との軍事協力・作戦に加盟国が関与することは認めた。明らかに矛盾した論理だ。米国が軍事同盟の北大西洋条約機構(NATO)加盟国や日本に強い圧力をかけ、作らせた抜け穴といえる。

 ◇人道が国際規範に

 引き換えに、不発率が極めて低い「最新型」の一部を除き禁止対象の兵器を広げた。各国が現在保有する最新型以外の爆弾はすべて禁止される。使用禁止まで猶予年数を設けるという案も排除され、即時使用禁止となった。

 軍事共同作戦容認条項は妥協の産物ではあるが、NATO諸国や日本は条約を拒む理由を失い、参加国が増えた。強い条約にするための取引と現時点では考えたい。

 オスロ・プロセスは、特定通常兵器使用禁止制限条約の軍縮交渉が進展しないため、見切りをつけた国々が飛び出して始めた。国益を代表する外交官が終わりのない議論を続けても、爆弾の使用はやまず目の前で被害者が増え続けた。

 人道の理念を掲げ、市民のいわれなき苦痛を一刻も早く終結させる目標を共有したのがオスロ・プロセスだ。だからこそ、開始から1年3カ月の短期間で大きな成果を作り出した。

 過去の慣行や常識にとらわれず、市民を守る国際規範を編み出す知恵を人間は共有できる。この条約はその証拠にもなるだろう。

毎日新聞 2008年5月31日 東京朝刊

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