プロレタリア文学作家、小林多喜二(1903~33年)の「蟹工船・党生活者」(新潮文庫)の今年の増刷が30日で延べ20万部を超えた。例年の47倍強で古典としては異例の大ヒット。ワーキングプア問題などと絡み話題になったためで、毎日新聞朝刊文化面(東京本社版)が今年1月9日に掲載した対談記事がブームの発端だ。
29年発表の「蟹工船」はカニを捕り缶詰に加工する船の労働者が、過酷な労働条件に怒り、立ち上がる話。毎日新聞の対談で、作家の雨宮処凛(かりん)さん(33)と高橋源一郎さん(57)は「ワーキングプアの現状は『蟹工船』の世界に通じる」などと話し合った。
対談を知った東京・上野の書店員が、新潮文庫を店頭で平積みにした。すると、週に1冊売れるかどうかだった同書が毎週数十冊売れた。同じ動きが、他店にも広がった。
今年は4月までに2万7000部、今月21万部。最近は4万~5万部を数日おきに刷っており、一部書店では品切れという。オリコンの文庫ランキング(19~25日)も11位を記録した。読者は半数強が30代以下とみられる。
新潮社では「古典がこれだけ急に売れた例はほかにない。もはや社会現象。中高年層もワーキングプア問題を理解する手がかりに読むようだ」と話している。【鈴木英生】
毎日新聞 2008年5月30日 18時54分(最終更新 5月31日 0時23分)