運動・認知機能改善へのアプローチ -子どもと高齢者の健康・体力・脳科学-
【編著者】 藤原 勝夫(金沢大学大学院医学系研究科教授)
【発行日】 2008年4月19日
【判型】 B-5
【ページ数】 178
【価格】 定価3,780円(税込)
【序文】
子どもを取り巻く環境に大きな変化が起きている。それは、マスメディアの発展に伴うコンピュータゲームの普及や運動遊びの減少、家族構成や地域社会の変化に伴う友達や人間関係の希薄化、生活時間や生活スタイルの激変などである。これらが相互に関連して、体力の著しい低下と、脳・心の深刻な健康問題を引き起こすに至った。高齢者においても、運動不足病を含む生活習慣病の予防とあわせて、脳・心の健康問題の解決が重要課題となってきた。特に、認知症の予防・治療は、国民の一大関心事となっている。これと軌を一にして、脳科学の著しい進歩があった。
こうした社会的状況を踏まえて、2005年に金沢で開催された日本健康行動科学会第4回学術大会において、「運動・認知機能の増進プログラム」と題して公開シンポジウムを開催した。そこでは、時代に即した健康に関する問題点を指摘し、健康づくりの新しい方法論を提示することをねらいとした。その他に配慮した点は、子どもから高齢者までを対象とすること、リハビリテーションと体力トレーニングに共通する方法論を見出すこと、および脳科学の研究成果を盛り込むことであった。この本は、この時のシンポジストを中心に執筆したものである。本の章立ては、1~4章に子どもに関連した内容、5~10章に高齢者に関連した内容、11~13章にリハビリテーションに関連した内容となっている。
この執筆にあたって留意したことは、既知の知識をまとめるのではなく、できるだけ多くの健康問題を紹介すること、およびその問題解決のために取り組んでいる研究を紹介することである。その他に、調査・実験による科学的データに基づいて、論を展開していただくように依頼した。とはいっても、ある程度基礎知識を盛り込まざるを得なかった。そのために、内容が広範に及ぶこととなり、まとまりがなくなったような印象を禁じ得ない。しかし内心、現代社会が抱えている深刻な健康問題について理解していただけるとともに、その問題解決のアプローチ法を見出していただけることを期待している。後者のことを実現するためには、健康問題として現れる具体的現象と生理機能とを直接結び付ける糸口を見出す必要がある。この本が、一人でも多くの研究者にそのような糸口を与えるような原石的存在になることを希望する。
2007年12月8日 金沢大学医学部新校舎にて
金沢大学大学院医学系研究科
藤原勝夫
【目次】
1章 子どもの脳を活性化させる運動 森 昭雄・小沢 徹・高寄 正樹
- 脳の発達
- 環境が脳におよぼす影響
- 運動によって変化する大脳皮質への入力の変化
- 運動経験にともなう脳内変化と筋出力
- 大脳皮質の運動学習の形成
- 大脳皮質における長期増強
- 小脳と運動野
- 前頭前野と運動野との関係
- 運動と脳波
- 運動とセロトニン
- 発育発達とセロトニンの働き
- NO-GO 電位
- 前頭前野と遊び
- コンピュータゲーム遊び
- 運動と音楽
2章 子どもの姿勢制御に影響する遊び内容と環境 藤原 勝夫
- 床振動時の予測的姿勢制御
- 散歩への取り組みと子どもの予測的姿勢制御能
- 保育園の遊戯室の広さと子どもの予測的姿勢制御適応能
3章 子どもの下肢運動の自動化水準 外山 寛
- 自動化水準の評価法
- 上肢運動のタイミングと下肢運動への干渉の大きさ
- 下肢運動の自動化の発達
- 散歩の下肢運動の自動化への影響
4章 子どもの生活・健康・体力 小澤 治夫
- 子どもの体力低下傾向とその要因
- 体力と生活の関連
- 食生活上の問題点
- 不適切な食生活とからだの変調・通学意欲
- 子どもの歩数
- 生活の変化と心の安定
- 生活習慣と学業成績・体力・健康との関連
- 地方における体力低下傾向と生活
- 生活改善の取り組み
- 学校体育の効果とその要因
- アクティブライフマネジメント
- 食事・運動・休養のバランスのとり方
- HQCシートでライフマネジメント
- アクティブライフマネジメントに取り組み、成功した学校の例
5章 リスト動作の調節メカニズムからみた神経トレーニング 室 増男
- 前腕筋の形状と力学的特性
- リストの機能解剖
- 運動単位の活動様式
- 高齢者のMUs 活動パターン
- 運動単位の振る舞いと巧みさ・筋力の関係
- 神経・筋のダイナミック調節機構
- オーバーハンドスローにおける肘伸展の制動機構
- 指解放のタイミング
- クリップ力とリスト動作
- 脳損傷後のトレーニング効果
6章 高齢者の平衡機能訓練 藤原 勝夫・茂岩 路恵・清田 岳臣
- 高齢者の平行機能訓練の必要性
- 姿勢制御中枢
- 床振動時の姿勢制御能の加齢変化
- バランスボードによる平行機能訓練法
- 体力に及ぼす平衡機能訓練効果
- 認知機能に対する平衡機能訓練効果
- 上肢運動時の姿勢制御と認知機能
7章 歩行機能向上のためのバイオメカニクス 吉澤 正尹・西島 吉典
- 平地歩行の歩容・筋活動様式の加齢的な変遷
- 筋活動からみた健常成人の歩行環境への対応
- 荷重量の増減に伴う下肢筋群の対応
- 歩行機能の維持と向上をめざして
8章 骨格筋のエネルギー代謝からみた運動訓練 福岡 義之・堀田 典生
- 骨格筋エネルギー代謝とは
- 酸素ダイナミクスからみた運動訓練
- 最大運動時のエネルギー代謝
- 運動誘発性の筋損傷とそれを予防するための運動訓練
9章 構え姿勢保持の中枢神経系活性化作用 国田 賢治・藤原 勝夫
- 構え姿勢保持による眼球運動反応時間の変化
- 頸部前屈姿勢保持に伴う眼球運動反応時間短縮を生じさせ機構
- 眼球運動反応時間短縮の運動経験による差異およびトレーニング効果
- 眼球運動反応時間短縮の加齢変化と身体活動量による差異
10章 運動における交感神経活動に関連した末梢循環調節 渡辺 一志・藤原 勝夫
- 交感神経性末梢循環調節機構
- 筋交感神経活動の調節機序
- 運動時の筋交感神経活動の変化とトレーニング効果
- 機能的交感神経遮断による末梢活動筋循環調節
- 構え姿勢保持による抹消循環調節の変化
11章 痙直型両麻痺児の立位姿勢保持トレーニング 冨田 秀仁・藤原 勝夫
- 痙直型両麻痺児の自動的姿勢制御の特徴
- 安静位と姿勢保持限界点における立位姿勢
- 安静位と姿勢保持限界点における身体アライメントと筋活動
- かがみ姿勢のトレーニングによる変化
12章 立位位置知覚脳を高める理学療法 浅井 仁・藤原 勝夫
- 感覚情報
- 立位位置知覚および位置情報となりうる体性感覚情報の大きな変化
- 立位での位置知覚を高めるための理学療法
13章 高次脳機能障害のリハビリテーション 村上 新治
- 高次脳機能の評価
- 脳機能評価システム「タッチエム」
- 「タッチエム」の臨床評価
- 「タッチエム」によるリハビリテーション
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