社説ウオッチング

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社説ウオッチング:クラスター爆弾 「不条理」廃絶訴え

 ◇「不条理」廃絶訴え--毎日

 ◇国の安全損なう--産経

 ◇首相の決断評価--朝日

 クラスターとはもともと英語でぶどうなどの房をいう。投下された容器が空中で開き、ぶどうの粒がばらけるように、数個から最大2000個以上の子爆弾が広範囲に飛び散る。民間人も軍事目標と区別なく攻撃にさらされ、爆発しなかった弾は戦闘終了後も残り、地雷と同じように突然爆発する。死傷者の98%が民間人で、27%は子供という。数千万個の不発弾が今も世界に転がっている。

 ◇キャンペーン報道展開

 そのクラスター爆弾をほぼ全面的に禁止する条約案が5月30日、参加約110カ国の全会一致で採択された。毎日新聞はこれまで、クラスター爆弾の廃絶を求めるキャンペーン報道を展開し、07年1月からは「STOPクラスター」というタイトルの連載記事などを多数掲載してきた。それに連動して社説も再三にわたって取り上げた。条約案採択は、そうした報道の上でも大きな節目となった。

 毎日の社説が他紙に先駆け、最初にクラスター爆弾を取り上げたのは06年10月。ずばり「使用禁止の条約が必要だ」が見出しだった。各地の戦争で市民を無差別殺傷してきた「第二の地雷」がイスラエルのレバノン攻撃でも使用された点をとらえ、「終わったのに終わらない戦争。そんな不条理はこれ以上、繰り返してはならない」と訴えた。1997年に採択された対人地雷禁止条約も、当時の小渕恵三外相の強い指導力で当初の消極論から加盟に方針転換した経緯を紹介し、「対人地雷と同じように使用禁止に向けた国際条約交渉に踏み出すべきだ」と提唱した。

 米国、中国、ロシアの抵抗で交渉が難航したため、ノルウェーなどの有志国と国際NGO(非政府組織)が新しい枠組みで禁止条約作りを目指す「オスロ・プロセス」に舞台が移ると、社説も日本政府に「条約作りの議論に積極的にかかわるべきだ」(07年2月)と呼びかけ、政府が態度を留保すると「今からでも遅くない」(07年11月)と翻意を促した。

 ◇今後へ三つの提言

 日本政府が条約に消極的だったのは、同盟国・米国への配慮と、クラスター爆弾が日本の防御用の抑止力として有効という論理だった。しかし、5月13日社説は、使用国は自軍の兵士や自国民を危険にさらさないため自国では使わず、敵国攻撃で使用している事実を指摘し、防御用の論理に疑問を投げかけた。そのうえで「政治決断で禁止の旗を掲げる時だ」と福田康夫首相に決意を迫った。

 そして、7本目となった31日社説。「歴史的な条約合意を歓迎する」と強調し、「政府内の反対論を抑えて禁止に賛成した福田首相の判断を評価したい」と記した。しかし、もちろんこれで終わりではない。「日本は先頭に立ってクラスター爆弾の廃絶運動を率いる決意を示してほしい」として、三つの提言をした。(1)自衛隊が保有するクラスター爆弾の早期の廃棄(2)不発弾処理や保有兵器廃棄、被害者援助への国際協力(3)米国など未加盟国への使用中止の働きかけ--である。

 ◇日経「米中ロも参加を」

 条約採択について31日までに、読売を除く各紙が社説で取り上げた。朝日は「とかく『官僚に近い』と言われる首相だが、今回は国際社会の動向や人道主義の流れなどを踏まえて、政治主導の重みを示して見せた」と福田首相の決断を評価し、「首相の決断の背景に、NGOの地道な活動があったことも忘れてはならない」と指摘した。

 日経は「クラスター弾被害の根絶への一歩」ととらえながらも、米国、中国、ロシアの「大量保有国が条約を支持しないのでは悲惨な事故の根絶は到底望めない」と嘆き、3カ国の条約参加を呼びかけた。東京も「米中ロを説得していく努力が必要だ」として、日本がその主導的役割を果たすよう求めた。

 こうした論調に真っ向から対立するのが産経だ。5月29日の社説は「自国の安全保障にいかなる影響を与えるかを慎重に検討すべきだ。自らの安全を損なうことになれば、将来に大きな禍根を残しかねない」と憂慮を表明した。「日本に侵攻してきた敵」の上陸を食い止める有力な手段はクラスター爆弾以外にないと力説し、韓国、北朝鮮も参加していないため「冷戦状態が色濃く残る北東アジア」で日本だけが保有を制限されるとの懸念を示した。さらに「日本は米軍への支援もできなくなろう」と、条約に反対の立場を鮮明にした。この主張は毎日とは決して相いれないものである。

 対人地雷禁止条約にも米国は参加していないが、イラク戦争で地雷は使わなかった。条約が国際ルールとして定着し、地雷は使えない兵器になってきた。大国が自分たちの思惑だけで世界を動かした時代は変わりつつある。

 「過去の慣行や常識にとらわれず、市民を守る国際規範を編み出す知恵を人間は共有できる」。毎日の社説はそう締めくくる。その人間の営みを息長く取材し、報道し、訴え続けたい。新聞が継続して取り組んでいく大切さを改めて実感する。【論説委員・小泉敬太】

毎日新聞 2008年6月1日 東京朝刊

 

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