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【社説】

週のはじめに考える 食の奪い合い、分かち合い

2008年6月1日

 世界各地で食べ物の争奪が頻発し「食料危機」がサミットの俎上(そじょう)にのせられるまでになりました。日本の自給率は39%。対岸の火事ではありません。

 福田康夫首相は一日欧州に出発してサルコジ仏大統領らと会見、ローマでの食料サミットにも出席します。首相は七月の北海道洞爺湖サミットの議長として食料危機の打開策を見いださねばなりません。訪欧はその地ならしです。

毎日2万4千人が餓死

 食料争奪はアフリカ、アジア、中米の二十カ国以上に広がり、フィリピンではコメ調達先のベトナムが国内向け優先で輸出を制限したため、レストランのメニューが“半ライス”に減らされました。中米ハイチでは豆類などが急騰して民衆の抗議デモが暴動に発展、議会が首相を解任しています。

 二〇〇七年を境に小麦、トウモロコシ、大豆が三倍に、コメは今年に入って三倍以上も値上がりしました。穀物は自国でも消費し、輸出に回される量が限られるので、逼迫(ひっぱく)の兆しが見えると途端に高騰します。奪い合いは貧しい国々で起きています。資金が不足し買い負けてしまうからです。

 価格急騰は中国などの需要増、バイオ燃料の穀物利用、干魃(かんばつ)などの気候変動が主因です。投機資金の穀物市場への流入も拍車をかけています。当面の供給はしのげても、食料配分の世界秩序にきしみが生じたと見るべきでしょう。

 一九九六年、ローマの国連食糧農業機関(FAO)が八億人の飢餓人口を二〇一五年までに半減させる目標を掲げました。しかし現実には年間四百万人も増え続け、今では八億五千万人を超えて連日二万四千人が餓死しています。

 この四月、農林水産省が食料安全保障課を新設しました。きっかけは昨春、上昇を始めた米シカゴ商品取引所の穀物相場です。

食料安全保障課の新設

 世界の総人口は五〇年には今の六十五億人から九十億人に増えると試算されています。FAOの食料在庫統計も低下が続き、いずれの数字も将来の食料不足を予測させるとの判断でした。九三年、深刻なコメ不足に見舞われ、農水省は国内混乱とタイ米緊急輸入という苦い体験をしています。

 安全保障課は穀物の需給変動などを分析し日本の農政に反映させる役割を担います。しかし食料の安定確保に即効薬はありません。テレビなどは買えなくても我慢すればすみますが、食料の欠乏は人々の生存にかかわります。三十一日、町村信孝官房長官は百万ヘクタールを超すコメ減反を見直すべきと述べました。異論はありません。

 英国は工業を振興し食料を海外に委ねる国際分業を進めてきました。食料自給率は40%台を低迷しましたが、七三年に欧州連合の前身、欧州共同体加盟を機に共通農業政策による財政支援で農家の生産意欲を刺激し、小麦輸出国に転じて八二年以降は、ほぼ70%台を維持しています。共通政策の恩恵とはいえ、英国政府が万が一に備えて食料安全保障の気概を示したからこその回復と言えます。

 欧州連合は食料高騰を受けて減反政策の廃止案を加盟国に示しました。参考になるはずです。

 日本は主食用のコメは全量自給しています。目下、小麦と遜色(そんしょく)のない米粉パンの試作が進められており、転作奨励金などで後押しし、早い商業化が期待されます。コメ以外も自給率の引き上げが求められます。「外国から買える」の危うさから目をそらし、不測の事態への備えを怠ってはいけません。

 食料配分の秩序がきしんできたとはいえ、資金が潤沢にあれば現状では農産物の輸入は可能です。それが「作物の収穫がままならない。カネもない」では悲惨です。

 内乱、虐殺で難民が続出しているアフリカのスーダン、ダルフール地方の政情不安もその一つ。難民生活が食料生産不能の環境に追いやり、大勢の餓死者を出す悪循環の典型になっています。

 昨年十月、FAOのディウフ事務局長は「地球には現在の総人口を養える食料があるはずだ」と力説し、誰に対してでも食料を得る権利を保障するよう訴えました。

地球人口は養える

 牛肉一キログラムの生産には十一キログラムの飼料穀物が必要です。経済が豊かになれば肉類もテーブルを飾ります。世界の十六億人が太り過ぎと診断されており、ディウフ氏の発言には、栄養過多を戒めて食料を途上国などに回せば飢餓を救えるという、分かち合いへの期待が込められています。

 横浜で先月開かれたアフリカ開発会議は、コメ生産量倍増の行動計画を採択しました。福田首相はサミットで品種改良などの技術支援を提案しますが、同時に、分かち合いの思想とシステム構築を発信する場にもすべきです。

 

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