欧州単一通貨ユーロの番人、欧州中央銀行(ECB)が6月1日で創立10周年を迎える。米経済が難局に直面し、ドルの信認が揺らぐなか、世界経済に占める欧州の役割は10年前と比較にならないほど増大した。
欧州中銀と欧州各国にとって、単一通貨制度の運用は試行錯誤の連続だった。1991年末の欧州首脳会議が通貨統合の道筋を定めたマーストリヒト条約を承認した際は、米英を中心に国際金融界に、計画の実現性を疑う声が少なくなかった。
99年1月に独仏伊など11カ国相互の為替相場を固定し、銀行間取引で実際にユーロが取引されて以降も懐疑論はなお根強かった。ユーロ相場は下落の一途をたどり、2000年には景気動向に機敏に対応できない欧州中銀に批判が集中した。
ユーロの存在が街行く人々にも幅広く実感され始めたのは、02年1月にユーロ紙幣や硬貨が流通するようになってからだ。ユーロを導入した国々が財政赤字を減らし、欧州中銀が物価を安定させたこともあり、通貨価値は格段に高まった。
今やユーロを採用する国は15に増え、さらに中・東欧各国の参加が予定されている。ユーロ圏の人口は約5億人。経済規模は米国に肩を並べる。為替という障壁がなくなったことで域内貿易が拡大し、域内産業の競争も活発化した。ユーロの誕生以来、約1600万人の新規雇用が創出されたことも評価できる。
これまでの10年間は助走期間である。真の挑戦が始まるのはこれからだ。いま世界では、原油価格が高騰し食糧価格の上昇も止まらない。欧州中銀はインフレ抑制の手腕を発揮しつつ、景気が減速しだしたことにも目配りする必要ができてきた。
欧州中銀は2%をやや下回る水準に物価上昇率を抑えるインフレ目標を採用し、中央銀行としての独立性を高めてきた。ところがトリシェ欧州中銀総裁の出身国フランスなどから、景気テコ入れを図るために金融緩和を求める声が台頭している。各国が財政規律を緩め、潜在成長率を高める構造改革が停滞している印象を与えるようだと、通貨統合の大原則が揺らぎかねない。
そうした問題を抱えるにせよ、米国が世界経済を1人では引っ張りきれずドル価値の目減りが続くなか、ユーロが果たす役割は高まらざるを得ない。新興国がユーロでの外貨準備の運用を増やし、国際市場でユーロ建ての債券発行が拡大しているのはその実例だ。アジア通貨の統合という問題を考えるとき、欧州の壮大な実験に目を凝らすべきだろう。