国家公務員の人事制度などを改める国家公務員制度改革基本法案の修正案が、参院本会議で審議入りした。来週中にも成立する見通しである。
与野党協議の難航で今国会成立は困難視されていたが、福田康夫首相の強い指示で与党が譲歩し、民主党も歩み寄って急きょ修正合意が成立し、衆院を通過した。自民、公明、民主各党とも「改革に消極的」とみられるのを恐れた結果だろう。
省益優先、縦割り行政、政官業の癒着など現行の公務員制度の弊害が言われて久しい。基本法成立により、改革が動き始めることには意義がある。
焦点の省庁幹部人事は、政府案では内閣人事庁を新設し、人事原案は各省庁がつくるとなっていた。修正案では人事庁を内閣官房に創設する「内閣人事局」に変更し、原案も官房長官がつくるとした。内閣の一元管理を強く打ち出した形だ。
政治家と官僚の接触制限規定は削除され、代わりに接触した際の記録を作成し情報公開することになった。議員活動が狭められるなど異論が多かった規定だ。現実的措置といえよう。
労働条件を当局との交渉で決めることができる団体協約締結権を非現業の公務員に拡大する問題でも与党側が譲歩し、前向きに取り組む文言が入った。固定的だった公務員の働き方が、交渉を通じて変わり得るようになるということだろう。
しかし、基本法案は公務員制度改革の方向性を示すプログラム法案だ。本当に実効ある改革を行えるかどうかは、個別法や運用規定の整備など今後の制度設計にかかっている。
幹部人事の内閣一元管理には官僚の反発が強く、今後の具体化段階で骨抜きになる可能性も否定しきれない。内閣人事局の権限を法律で明確に規定しなければ、省庁側がつくった人事案を追認するだけの機関になりかねまい。政官の接触にしても、記録の文書化と保存を徹底し、きちんと公開できる制度にしなければ意味がない。
キャリア制は廃止し新たな区分に再編することになっているが、?種試験合格者を優遇する現行制度の弊害を除けるかどうかもこれからだ。早期退職勧奨や天下り問題への対処についても、修正案で六十五歳への定年引き上げ検討が入っただけだ。解決には一層の取り組みが必要だろう。
基本法成立は、霞が関改革の一里塚でしかない。実効ある制度設計を行うには、やはり政治のしっかりしたリードが欠かせない。与野党の力量が試されるのはこれからだ。
全日空のプロペラ旅客機ボンバルディアDHC8―Q400が昨年三月、前輪が出ず高知空港に胴体着陸した事故で、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会は、製造したカナダのボンバルディア社が完成直後に前輪格納扉開閉装置のボルトを付け忘れた初歩的作業ミスが原因とする最終報告書を公表した。
ボルトがなかった事実は事故直後の調査で明らかとなっていたが、全日空に納入された時点でボルトはなかったという結論だ。欠陥機が二年間も飛び続けていたとは驚きである。
報告書によると、ボ社は二〇〇五年六月、完成後に行った車輪の動作試験で誤って開閉装置を破損し、装置の一部を交換した。その際にボルトを付け忘れたとみられるという。
重要な修理にもかかわらず、ボ社には作業員に具体的作業内容を示す手順書がなかった。事故調委は「手順書があればボルトの付け忘れはなかったと考えられる」と指摘している。小さな部品一個もおろそかにできないことを、メーカーや航空会社に突きつけた形だ。事故調委は、品質管理に問題があるとしてカナダ運輸省に指導を求める安全勧告を行った。
高知空港の事故以外にもボ社のDHC8型機では、一九八七年以降、前輪や主脚の一部などが出ずに胴体着陸する事故が八件起きている。報告書ではボルトなど部品の欠落とは無関係と結論付けた。多発する事故やトラブルに共通する問題はなかったのか、報告書には物足りない印象も残る。
DHC8型機は、地方都市や離島路線に使われる主力機だが、利用者や自治体からは機種の変更を要望する声も出ている。明らかとなった事故原因を教訓に、関係各社は安全運航の徹底を心掛けてもらいたい。
(2008年5月31日掲載)