2006年 03月 21日
(産経 06/3/20) 名コラムニストとして朝日新聞で活躍した辰濃和男さんが、その著書『文章の書き方』(岩波新書)の中で、女優の沢村貞子(平成八年八月、八十七歳で死去)の随筆を取り上げている。沢村は幼いころ、母親に水を大切にするようにしつけられた。随筆は、あるテレビ局の手洗いで出会った若い女優について触れた内容だ。 〈「その手許(てもと)の蛇口から勢よく水が流れている。アイシャドウを塗るのに夢中でしめ忘れたのか、それとも、あとでもう一度、指先きでも洗うつもりなのだろうか。…まさか横から手を出してとめるわけにもゆかないし、…注意したらこの可愛らしい女の子は傷つくことだろう」〉 沢村の心の内を辰濃さんは〈底意地の悪い姑(しゅうと)役を演じたくない。しかし、流れ落ちる水を見ていると気が気でない〉と描写してからまた、随筆に戻る。 〈「あなた、きれいねぇ…若い人って、見ているだけで気持がいいわねぇ」。おどろいたように私を見たお嬢さんは…ニッコリ笑い返してくれた。それをキッカケに、「アラ、この蛇口こわれているのかしら」。独り言のように小さく言いながら、何気なく手をのばして、彼女の前の蛇口をキチンとしめて、あとは…。そうしないと今日(こんにち)さまにすまないような気がするのは、やっぱり明治女のせいだろう〉 沢村の「傷つけてはいけない」という若い女優への思いやりと、「蛇口をしめなければお天道(てんとう)さまに申し訳ない」という信条が伝わってくる。 本紙「主張」(一月二十三日付)も、無遠慮にせきやくしゃみをする人、禁煙場所でたばこを吸う者…と、しつけの悪さを指摘し、「日本人はいつから行儀が悪くなってしまったのか」と嘆き、復活しつつある「江戸しぐさ」に期待を寄せている。 ところで、私も若い人を注意したことはあるが、苦い思いと失敗ばかりだ。 電車内でイヤホンからチャカチャカ響いてくるうっとうしい音漏れに我慢できなくなり、隣の茶髪の若者を「音が聞こえるよ」と怒ったら、「僕じゃない」とにらみつけられた。彼の隣に立っていた学生風の男性を見ると、同じようにイヤホンをして体で小さくリズムをとっている。その向こうにも、ヘッドホン姿の若い女性が見える。「端から注意してやろうか」とも考えたが…、やめた。 やはり、朝の通勤途中のことだ。地下鉄の階段を下りたところで、後ろからドンと突かれた。「痛いじゃないか」と怒ると、「こっちも押されたんだ」と謝りもしない。それで口論となった。 昨春、東京の地下鉄広尾駅のホームでこんな事件が起きた。若い女がお年寄りの女性から「こんなところで化粧をするんじゃないわよ」と注意された。カッとなったこの女は、入ってきた電車にお年寄りを接触させて重傷を負わせた容疑で逮捕された。 こうした傷害事件は、いまに始まったことではないが、なぜ、こんな最悪の事態になるのか。 「文は心である」と繰り返す辰濃さんは、最後に沢村の随筆を〈思いあぐねながら、お世辞を使いながら、それでも、どうしても蛇口をしめずにはいられない。…。そういう自分の後ろ姿を、もう一人の沢村がおかしがっている。そのゆとりが、文章に落ち着きを与えています〉とほめている。 注意されれば、だれだって「うるさい」と感じ、自らの非をなかなか認めようとはしない。だからこそ、明治女の「信条」と「思いやり」、それに「ゆとり」が大切なのだろう。 by sakura4987 | 2006-03-21 14:01 | ■感動の話・誇れる話
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